死の淵に立つ馬② ~それぞれの立場で出来る事。

前回のあらすじ~
2日間の疝痛の果てに、
 腸の動きが止まった木曽馬の岳風。
 見守る人間たちの、
 それぞれの立場での努力が始まった。

 

 

自分の手だけでは、
弱った馬の肉体に変化を促すには 心もとなく感じた。

 

獣医に断わって、
精油や音叉も使いながら 腹部を刺激してみる。

 

動物は、音叉には敏感だという。
腹に刺激が入って腸が動くことで痛みが生じるのだろうか。
後ずさりをする。

 

出来るだけ痛みが生じないよう、
身体にどんな変化が起きているかは
つぶさに把握しておきたい。

 

やはり自分の手で、
細胞と岳の息遣いを感じながら手当をしよう。

 

人間と同じ構造なら、
横隔膜から伸びた内側脚が腰椎に付着しているはず。

 

横隔膜の端と端を押さえるように、
腰仙関節とみぞおちにアプローチする。

 

2か所に精油を塗布し、同時に触れる。
精油が、エネルギーの伝導を助けてくれるだろう。

 

横隔膜の広がりを意識で捉えながら、
反応が起こるのをじっと待つ。

 

横隔膜全体が、
意識に入ってくるようになった。
これは、ひとまず横隔膜全体に
エネルギーが通ったという目安。

 

獣医が、心拍と腸の動きを聴きに来る。

 

今まで動いていなかったところが
動いてきているかも知れない、と。

 

ただ、40メートルの腸。
外側で聴診出来る範囲は動いても、
その奥がどうなっているかは分からない。

 

肌寒い早春の夜、
「冷たい」と言いつつ片腕を水で浸した獣医は、

 

おもむろに直腸検査を始めた。
肩まで、肛門の中へと消えていく。
ちなみに、獣医は女医さんだ。

 

生き物を扱う人の潔さは、独特だ。
それは、 生き死にと
当たり前の様に背中合わせでいる事から来る、
厳しさと覚悟と、そして
その底に大きな優しさがあるからなのだろうと思う。

 

肩まで入るほど
奥深くに腕を挿し込むと、

 

「ガチガチだと思ってたけど、少し凹むな」

 

思っていたよりボロの固さは
柔らかかったようだ。
少し、望みが強くなる。

 

直腸検査からしばらく経って、
痛さをおくびにも出さず
静かに我慢し続けていた岳が

 

腰から崩れるように
ゆっくりと倒れた。

 

張りすぎた腹が邪魔をして、
上側の足は浮いたまま。
目が力なく閉じ始める。

 

眠ってはマズいと自分で分かっているかのように、
必死に瞼をしばたたいて 目を開けようとしている。

 

やがて痙攣のような動きが起き、
目がグルグルと彷徨う。

 

これはマズいな。
白目を剥き始めた…。

 

足を大きくバタバタ動かしている。
苦しい腹を蹴ろうとしている様だ。

 

それを察した場長とスタッフが、
腹を強くたたき始めた。

 

人間が相手なら、
苦しんでいる所を強く叩いたり押したりするのは、
あり得ない。

 

心臓マッサージだって、
相手の意識がない状態で行う。

 

可哀想という言葉は
誰からも出なかった。重要なのは、
タイミングを外さぬこと。

 

今この瞬間にやるべきことを、
やれることをやるだけ。

 

馬がしようとしている事の
意を汲んで、 それを実行に繋げる
反射神経があるかどうか。

 

行動の表面がどんな形かに囚われず、
その意図が馬の意思を支えるものなら、
迷っているヒマはない。

 

場長は、空を蹴る岳の脚を見て
何が必要かを瞬間的に嗅ぎ分け、
行動した様に見えた。

 

 

…続く

 

 

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