「防衛反応」の持つ複雑性と特殊性

 

自分を守ろうとする瞬間に、
私たちは多様な反応を
幾つも重ねて行っています。

同時にもしくは時を経ずして、
複数の反応が「身体」という
一つの「場」の中で重なって生じることで、

私たちの身体の内外には
特殊で複雑な力のつながりが生まれます。

ここでは
「防衛反応」を起こす際に
身体はどのような機序で動くか、
その具体的な例をご紹介します。

1年前になると思いますが、
通勤中の私の鼻に
オオスズメバチが止まろうとする、
という出来事がありました。

その時、私は携帯で
実家の母と話しながら歩いていて、
周囲に意識が行っていませんでした。

気付いた時には既に、
右目と鼻の間のすぐ前で
ホバリングしている
オオスズメバチが見えました。

オオスズメバチの足も羽も、
はっきり視認できます。

私の頬は、
その羽ばたきで生じる
空気の動きも感じていました。

蜂の足がいまにも鼻に触れる、
まさにその寸前です。

顔を刺される!!
絶体絶命の大ピンチです。

マズい!!と思ったその瞬間、
自分では意図していないのに
目玉が勝手に動きました。

(身体に起きる自動的な動きは
通常は意識化されにくいものですが、
私の場合は仕事柄もあり、
意識が自ずとそうした動きを捕捉するように
訓練できているようです。)

左手にはスマホを持ち、
右肩には大きな荷物を下げ、
両手が塞がっていることを視認します。

両手は防御に使えないことを
まず目が動いてしっかり捉えると、
私の顕在意識もそれを理解しました。

その途端に、
今度は身体が勝手に反応し、

右半身を後ろに引きながら
ぎゅっと目をつぶって、
「わ~~!!!」と叫び声を挙げました。

私は普段
大きな声を出すことはないので、
叫んだことに自分で驚きました。

身体を引いたことが良かったのか、
声の勢いで跳ね飛ばせたのか。

結果的に何が
功を奏したかは分かりませんが、

自分の叫び声に驚いて目を開けた時には
オオスズメバチの姿はありませんでした。

この時に生じた
一連の自動的な防衛反応を見ると、

まずは目で状況を判断、
脳(意識)に一旦
情報をアップロードした後、
身体を右に旋回し、
目をつぶり、叫ぶ。

ざっと見ただけでも
5通りの反応を起こしています。

さらには、
一つ一つの動きも単純ではなく、

目玉は
オオスズメバチ→
右手→左手→全身
と言うように視野を移していましたし、

勢いよく身体を右に引くには、
軸足の支持力を高め、
骨盤や肩を中心に動きを起こしつつ、
身体が一体となって反応するよう
(動きに取り残される部位のないように)
高度な調整が必要です。

このように、
ひとつの出来事の中で
非常に複雑で多岐にわたる反応を
身体が瞬時に判断・実行していて、

「私」の「意識」は
起きていることの全体性の把握、
いわば状況に関わる情報全体を
整理・統合するという役割を担って
登場はするけれど、

反応を起こしている主体は
あくまで身体自身と言えます。

これが「防衛」のための反応が持つ
特殊性であり、

こうした性質のために、
身体には複雑な力のつながりが
残り易いものと考えられます。