体性感覚の過敏さ

 

「よかった~」 Mさんはほ~っと息を吐き出すと、
表情を崩して、そうつぶやきました。

 

「肘に捻じれがある。」

 

「足の外側*1に変な筋があって膝の上の筋肉*2が外に行くのを邪魔してる。
膝の上の筋肉は内側に寄ってしまっていて、気持ち悪いから外に戻って欲しいのに。」

 

*1右大腿下部の外側面/腸脛靭帯遠位
*2大腿直筋

 

「いつも顔の右側が引っ張られてる。
右目は爬虫類みたいに、目の表面の膜がずれてる感じがしていて。」

 

一言で言うなら、「体性感覚の知覚過敏」、でしょうか。
Mさんは長い間、こういう感覚を一人で抱え続けて来たのだそうです。

 

Mさんの話を聴いた時に、これは正しく 筋膜上で起きている感覚だと思いました。

 

この感覚を言葉で表現するのは困難で、 感じたことのない人には
「あぁ、なるほど。」と 分かってもらうのも難しいものです。

 

医者に説明しても、 自分の所では扱えないと言われたそうです。
分かってもらえないから、一人で抱えるしかありません。

 

この身体感覚は、「そんな感じがする」という 曖昧なものではなくて、
まざまざとそれを体験している、 現実感のある感覚です。

 

感じないふりは出来ないのに、人と共有することも難しい。
その為に、不安や孤独を感じさせるものでもあるのです。

 

こうした感覚には、 それに合致する現象が実はちゃんとあります。

 

ただそれは、表面からは見えないことの方が多く、
奥深くで複雑なつながりを持つものだったりします。

 

「肘の捻じれがあるのは分かるし、 肘(肘窩)に固い筋が出来てるから
(それが捻じれと関係していると感じて)
ほぐそうとするけど、ほぐれないんです。

 

だから、ほぐすとかそんなのじゃないんだなって。
でも、自分ではどうしたらいいか、分からなくて。」

 

この日、Mさんは2回目の施術でした。

 

初回では、腹部からノドにかけての施術で、
腹部と胸郭の位置が全体的に上に上がる変化を示しました。

 

ご本人も内臓下垂があると話していたので、 この変化は、
身体が内臓下垂を元に戻して行く為に 準備をし始めた兆候とも受け取れました。

 

身体は、その人本来の あるべき形・姿を知っています

 

人にはそれぞれ、身体の理想的な鋳型があります。 そしてそれは、
とても緻密なバランスの上に 設定されているもののようです。

 

社会生活の中で、私たちの身体の構造には
色んな事をきっかけにして狂いが生じ始めます。

 

でも、その狂いがどんなに大きくなっても、
ちゃんと元々の鋳型は身体自身に記憶されているようなのです。

 

例えば、捻じれていた腕が変化した時、 「元に戻った」と感じたりします。

 

なぜ、元に戻ったと分かるのでしょう?

 

骨、筋肉、筋膜、皮膚。 組織や器官は、どのように互いが接し重なり合うかを、
正確な位置関係で把握している証ではないでしょうか。

 

初回から1週間経ての、2回目の施術。
筋肉に以前よりも力が入り易くなったのか、 身体は全体的にしっかりしていました。

 

前回の施術の後でこんな変化が起きたと、 Mさんが話してくれました。

 

「胸からノドにかけて、ずっと縮まって
詰まってる感じがしていたのが、 伸びて起きてきた気がしました。
頭を(身体の)前で支えてたのが、 後ろでも支えられるようになって来た感じです。」

 

「足の付け根が捻じれで細く感じていたのが、
胴からの流れでそのままある、という感じになって。」

 

「今までノドの辺りだけだった自分の声が、
身体全体に響くようになって来ました。」と。

 

前回の時には、身体の反応の仕方に迷いがあるような、
身体がどう変化したいのかを なかなか決めてくれない感じがありました。

 

今回は、それが分かりやすくなり、
反応の仕方に淀みが無いように感じました。

 

筋膜の施術で起きるのは、身体の情報の整理です。
もう少し具体的には、 身体が帯びてしまった無駄な力の作用の 解除とも言えます。
身体がシンプルになって行くので、 反応にも迷いがなくなるのかも知れません。

 

ケガや心理的抑圧など、 日常にある様々な「緊張」の要素は、
筋膜に物理的な痕跡を残します

 

それが、ブロックとなって、 私たちの身体の形や構造を狂わせて行きます。
もちろん、動きにも影響します。

 

それを一つ一つ取り除いて行けば、
身体は自ずと元の自分の鋳型へと、 戻って行きます。

Gray112(肋骨弓)mini

 

2回目の施術では、右肋骨弓の緊張を解きました。

 

横隔膜の付着している所でもあるので、 ここが緩みだすと共に、
横隔膜と右肺とが広がっていく感触が生じました。

 

終了後、Mさんは呼吸が深くなったのを感じて、 とてもほっとされた様子です。

 

気になっていた肘の捻じれと足の外側の固い筋も
確認してもらいました。 こちらも改善しているとの事でした。

 

右肋骨弓で起きていた緊張で腹部が縮んでいた事で、
足や肘にも捻じれが引き起こされた可能性について、 細かく説明しました。*3

 

*3 あくまで私の個人的な見解だと、 お断りした上で説明しています。
また、緊張の蓄積の仕方によって、出方は異なります。

 

ご自身に起きていたことと説明とは、 感覚的に合致した様でした。

 

正解かどうかはともかくも、正体の分からなかった現象を
理解する手掛かりにはなったのだろうと思います。

 

「本当によかった~」 と笑ったMさんは、
大きく深く、安心した様に息を吐き出しました。

 

 

 

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