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過去を生きる細胞~古傷の臨床 /3月の営業予定

3月の営業予定

街中を歩いていると、

沈丁花や梅の香りが

時折ふわっと

鼻をくすぐる様に

なりましたね。

それに、

暖かい日差しと風に…

マスク姿の人たち!

あ~、いよいよ

春が来たんだなぁと

色んな意味で思います( ^ω^ )

私自身も

馬の仕事をしていた頃に

花粉症を発症して、

かなり長い付き合いになります。

でもこれは

私にとっては

恰好の教材でもあって、

自分の身体で色々と試しながら、

本当のところ

花粉症とは一体

どんな原因で出て来るのか、

どうしたら状態を

緩和させることが出来るのかと、

毎年この時期になると

原因究明のための取り組みを

自分を実験台にしつつ

細々としています。

そんな中で、今年は少し

花粉症のメカニズムについて

理解が深まったところがあり、

もしかしたら次回の記事で

お伝え出来ることが

あるかも知れません。

さてさて。

今回の記事では、

古傷の細胞たちは

傷を受けた時点の状態を

今もなお生き続けている、

ということを

分かりやすく示してくれた

症例のお話をして行きます。

その前にまずは、

3月の営業のお知らせを簡単に。

3月の臨時休業は

16日の木曜日のみです。

それ以外の日は

通常通りの営業で、

定休日は水・日曜日、

営業は11時から20時まで

となります。

施術の最終受付は

17時とさせて頂いております。

(ご予約・お問い合わせはこちらへ。)

過去を生きる細胞~古傷の臨床

「身体の方も、

これで一段落したんですね。」

施術が終わり、

身体がどんな変化を生じたかの

説明をしていた際に、

Mさんはそう言いました。

も?

と言うことは他にも何か?

そう問い返す前に、

Mさんが言葉を継ぎました。

衝撃的な事故

Mさんは3年前、

バイクに乗っていて

軽自動車にぶつかられ、

バイクごと横倒しになりました。

よそ見をしていたのか、

相手の運転手は

それに全く気づいておらず、

車に引っ掛けられたまま

Mさんは5メートルほど

地面を引きずられたのだそうです。

対向から来た他の車が

事態に気づいてくれたことで、

軽自動車はやっと止まりました。

慌てて駆けつけて来た

近隣の人たちに助け起こされ、

何とか救急車に乗ったMさん。

バイクの

下敷きになっていた左足は、

内股の上部が深く切り裂け、

地面に擦りつけられた

大腿外側部では皮膚が削れており、

後日皮膚移植を行ったそうです。

救急車の車内で

内股の傷口を確認した隊員は、

「大きな神経や血管は

無事ですよ!

良かったですね~。」

と声を掛けてくれたそうですが、

それが目視できるほど

傷が深いのかと、

Mさんはかえって

ショックを受けました。

古傷をたどって

Mさんが当院を訪れたのは

先月のある日のこと。

その目的は決して、

大きな痛みを伴う事故の古傷を

癒すことではありませんでした。

それにもかかわらず、

施術を進めて行く内に

アプローチは自ずと、

事故の時の傷跡に向けて

集約して行きました。

最初は、

左足の踵から小趾へと

アプローチが生じました。

足の形状と

アプローチの過程から見ると、

左足はどうしても

外側に頼って荷重せざるを

得なかった様子で、

踵は外側に傾き、

小趾は地面に向かって

押し付けるようにして

踏ん張っていたことを、

身体が教えてくれます。

この施術は、

身体の声を聴きながら行います。

身体がどこに触れて欲しいか、

どこにアプローチして欲しいかは、

身体が示してくれます。

それは物理的なサインを伴って

体表に現れます。)

外側荷重のパターンが

左足に生じた原因は、

内股に受けた深い傷のように

思われました。

内股にケガをすれば、

足の内側には

力が入りにくくなり、

外側の筋肉の力に

頼らざるを得なくなります。

小趾の踏ん張りを支えていた

緊張を解いていくと、

ぎゅっと閉じていた小趾の根元が

外へ開きました。

この変化によって、

足指の付け根全体を

広く使えるようになれば、

外側荷重のパターンは

緩和するはずです。

そう考えて

左大腿外側の傷跡の

硬くしこっていた組織に

触れてみると、

ここにも

変化が生じ始めていました。

組織が柔らかくなり、

しこりの緩む気配が兆しています。

この様子を観察したことで、

最初の踵~小趾へのアプローチは

古傷と繋がっているのではないか

と感じたのです。

これらの変化は、

次に起きるべき変化の

下準備だったようです。

今度は、

左大腿部の外側の傷跡と

内股の傷跡とをつなぐように

アプローチが生じました。

同時に傷を負ったとは言え、

別々の2つの傷です。

ですが身体は、

それらを結び付ける

「ライン」があることを

示し始めました。

大腿の外側の傷跡から

腸脛靭帯沿いを上へ。

車に引きずられた際に

大腿の外側部、

すなわち腸脛靭帯の

下部では皮膚が削れ、

上部は強い擦過のためでしょう

血が溜まったのだそうです。

傷は塞がっても、

傷口だった箇所や

血が溜まって伸びた箇所では

組織の膠着や緊張が残存します。

身体が体表に映し出すサインを

追いかけていくと、

まさしくその腸脛靭帯を

辿って行きました。

サインを追いかけて

先へ進んで行くのに伴って、

組織の緊張や膠着は

おのずと解けて行きます。

身体からのサインは、

音の響きに似ています。

次に触れて欲しいところを

身体が「トーン」と

音で示してくれる感じです。

どんどん移動して行く

その音を追いかけて行くと、

その間に身体は

自分自身がどんな風に

緊張していたのかを

把握し直せるようなのです。

そして、

自分はどこがどんな風に

緊張していたのかを

身体自身が再確認出来れば、

身体はそこから抜け出すことが

可能になるようです。

腸脛靭帯に沿って

上にのぼり、

大転子にたどり着くと、

ラインはそこから内へ曲がって

股関節頭へと向かいました。

大転子も股関節頭も、

上縁が詰まったように

固まっていましたが、

それは受傷時に

股関節が曲がっていたことと

現象的に合致します。

その固まっている状態を

解きほぐそうとするように、

しばらくの間

サインは小さな範囲に

細かく現れ続けました。

やがて、

そこに硬さを残したまま

移動し始めたサインは、

内股の方を目指し始めました。

古傷からの回復

Mさんの内股上部の傷は

水平方向に切り裂け、

幅10センチほどもありました。

股関節頭から辿って来た

サインは、今度は

その傷を縫い合わせた縫合痕を

辿るかの様に、移動を続けます。

サインの描き出したラインは、

ジグザグというか

網の目というか…。

あたかももう一度

傷を縫い直しているかのように、

繊細な移動を繰り返しました。

深い傷によって

筋組織が大きく切断された傷口は、

傷が治ったはずの今でも

表面からふれると凹んでいました。

傷口を縫い直すように

サインを追いかける内に、

凹みに変化が生じ始めました。

筋肉が奥の方から

ふ~っと膨らんで来ます。

凹みも、浅くなって行きます。

傷口を挟んで

分断されていた筋肉にも、

今までとは違った感触が

生じてきました。

それは、

傷口の上下の筋肉を

結び付ける力が、

回復して行く感触です。

エネルギーの疎通の重要性

これはどういう事かと言うと、

物質的な意味では

傷口は治って閉じたとしても、

エネルギー的な面では

健全さを回復できていなかった

ということです。

エネルギーと言うと

単なる概念的なもののように

感じる向きもあるかも知れませんが、

エネルギーの流れが

全身の細胞をまとめ、

一つの生命体として

活動することを可能にしています。

ケガなどによって

組織同士のつながりが

一旦切断されると、

物質的な肉体だけでなく

身体を巡るエネルギーも

その部分で遮断が生じます。

傷口に緊張や膠着などの

「状態の異常」が残ることで、

エネルギーの流れは

遮断されたままになります。

傷口を縫い直すように

サインを辿るうちに、

傷跡の細胞たちの緊張は

解けて行きました。

それに伴って、

傷口の上下の細胞たちの

エネルギーの疎通も回復したのです。

分断されていた細胞たちが

お互いの繋がりを回復し、

内股がしっかりとして来ました。

内股の筋肉に

力が戻ったからでしょう、

外側の腸脛靭帯もさらに

緩んで行きます。

サインは

移動を始めました。

水平の傷跡を外へと辿って

大腿直筋の上部へ出ると、

そこから上へと向きを変えて

ふたたび股関節頭へ。

バイクに乗った状態での

事故だったため、

受傷時に股関節と膝は

屈曲していました。

これら2つの関節を

またいで働く大腿直筋は、

この影響で強い緊張を抱え、

粘土のような無機質さのある

硬い手触りになっていました。

上手く機能できていなかったのは

内股だけではなかったことが

分かります。

内股も大腿の前面も

力が入りにくかったとあれば、

皮膚が削れるほどの

ケガをした箇所であっても、

どうしても大腿の外側に

荷重を頼らざるを得なかったわけです。

この部位の傷跡は

硬くしこった状態になっており、

Mさんも気になっていたそうですが、

傷を受けた衝撃と緊張を抱えつつ

身体の荷重を一手に引き受けていた

この箇所の細胞にとっては、

なかなか解けない

硬いしこりと思われるほどの

強い防御が必要だったとも言えます。

股関節頭へアプローチが始まると、

大腿直筋は徐々に緩み始め、

膝の方へ向かって伸びて行きました。

これは裏を返せば、

大腿直筋は今まで

股関節頭の方へ向かって

引き上がっていたのであり、

例えば歩行中などで

股関節を伸ばす動きの時でも、

内在的には股関節が曲がっている

と言う状態にあったことが分かります。

大腿直筋は柔らかさを回復し、

粘土から本来の筋肉へと

戻って行くようでした。

緩みながら

伸びやかさを取り戻して行く筋肉が、

「は~、良かった~…。」

と、安堵の溜息をついたように感じました。

この日の施術は、ここで終了になりました。

身体は、私たちと共に歩んでいる。

施術後のお茶の時間に、

施術の総括をお伝えしました。

身体の細胞は

事故の時の状態を

ずっと生きていたこと、

それを今日

身体は手放すつもりで

ここに来たのだろう、

という風な

お話しをすると、

Mさんは冒頭の様に

「これで身体も一段落したんですね。」

と。

事故によって思いがけず

示談金を得たMさんは、

それを元手に

勉強を始めたのだそうです。

仕事に活かせる内容で、

資格試験もありました。

事故では

大怪我をしただけでなく、

長年連れ添って来て

自分の一部のように感じていた

大切なバイクも失ったそうです。

辛い経験だったけれど、

それを出来るだけ

ポジティブなものに変えたい、

そういう気持ちも手伝っての

決意でした。

ですが、

忙しい時間を縫って

全ての科目を修了するのは

かなりの努力が必要だったそうで、

仕事で疲れて帰ってから

勉強する気力を起こす際には、

事故の時の衝撃と悔しさを思い出して

励みとしていたのだそうです。

3年前の事故を

きっかけにして始まった勉強は、

奇しくも今からひと月ほど前に

修了したばかりとのことでした。

この話を聞いたときに、

こんな風に感じました。

事故の時の痛みは、

Mさんが勉強を完遂できるよう

助けてくれていたのだな、

身体にとっては、

今だからやっと

事故の時の緊張を

手放せるのだな、と。

そして、身体はこんなにも

私たちを助けてくれて

いるのだな、と。

過去の時間の中に

踏み止まっていた細胞たちは

きっと、

「今」の時間の感覚を

Mさんと共に、

これからゆっくり

取り戻して行くのだろうと思います。

結びにかえて ~ 痛みを役割から解き放つ

楽になりたいと思って

施術を受けているのに、

思ったように変わらない時、

その痛みには、

私たちそれぞれを支える為の

何らかの役割が

あるのかも知れません。

痛みを手放すことは、

痛みが担ってくれている役割から

痛みを解放する事でもあります。

そう理解をしたうえで、

痛みを本当に手放したいと

思っているか、

手放す準備は出来ているかと、

自分に問いかけてみて下さい。

もし、

そう問いかける中で

痛みを抱え続けていた理由や

必要性に気づけたなら、

その時

身体はおのずと

痛みを手放し始めます。

おわり

姿勢は、心の状態を左右する ~馬の臨床②:ジャック編

 

穏やかな青空に恵まれた

年の始め。

 

この日、

暖かな陽差しの中を

ポニー達のいる「馬飼舎」へと

向かいました。

 

(くにたち馬飼舎:

http://hatakenbo.org/jackdandy

 

場所は、

neMu no ki と同じ国立市内。

歩くと30分くらいかかります。

 

周囲には田畑があり、

その間を細い用水路が流れ、

 

時期によっては、

ザリガニを探す子供たちの

声が響いていたり、

 

それを見守る

お母さんたちの姿がある、

懐かしい匂いのする場所です。

 

この日は三が日とあって、

あたりは静かな気配。

心なしか、時の流れも

ゆっくりしているようでした。

 

 

到着すると、

日当たりの良い馬場の

柵の上から、

黒い顔がひょっこりと

外を覗いていました。

 

ジャックです。

 

ジャックは、

細く柔らかな手触りをした

真っ黒い毛並みのポニー。

 

のんびりしている様子に釣られて、

挨拶をしようと

ジャックの方へ近づきました。

 

 

この日はこれから、

2頭に施術を行う予定でした。

 

施術するのはこんな人間ですよと、

認識しておいてもらおう。

 

彼らには

何度か会っていますが、

まともに触れ合うのは

初めてのこと。

 

とりわけジャックは、

いつももう1頭のポニー:

白毛のダンディの

後ろにいる印象があり、

 

直接触る機会は、これまで

あまりありませんでした。

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ジャックにしても、

私のことは恐らく

大勢の中の一人と言った程度で、

個体識別はできていないでしょう。

 

 

手のひらを軽く開いて

手の力を抜き、

ジャックの鼻の下に

そっと近づけます。

 

ジャックも

自分から鼻先を近づけると、

手の匂いを確認します。

 

これが馬同士なら、

お互いの鼻孔を近づけて、

呼気の匂いを嗅ぎ合って

相手を認知するところです。

 

 

ジャック的には、

「…ふ~ん。」

という感じ?(^▽^;)

 

受け入れてくれた

かどうかはともかく、

認識はしたみたい。

 

今度は、ジャックの

頬の辺りに触れようと、

手を少し上へ移動します。

 

その途端、ジャックは

顔を素早くそらすと、

手の甲の皮膚を軽くつまむように

歯でキュッと噛みました。

 

 

…おぉ( ゚Д゚)

そう来るか~。

 

気易く触られるのは、

嫌なのかしらん。

 

ツレないなぁ~(;・∀・)

 

 

 

ジャックが抱える、コミュニケーションの問題

 

ポニー達への施術は、

飼育員さんからの依頼でした。

 

彼らの身体のバランスを

みてもらいたい

という主旨でしたが、

 

特に施術を必要としているのは

ダンディの方とのことでした。

 

ダンディは、昨年の年末に

落ち着かない行動を見せる様になり、

 

飼育員さん達の感覚では、

それはどうも

特定の理由によるものではなく、

全体的なバランスの状態から

来ているように感じられたので、

 

整体を受けさせたいと

思ってくださったとのことでした。

 

(ダンディの施術については、以下の記事をご覧ください。

https://inemurino-ki.com/2016/02/28/therapy-for-a-riding-horse/

 

施術のメインはダンディだと

ちゃんと聞いていたはずなのに、

 

お話を受けてから

この日までずっと、

私の頭の中に浮かんでいたのは

ジャックでした。

 

それは、彼らと会った際に

こんな光景を何度か

目にしている気がして、

ジャックが気になっていた為でした。

 

 

ジャックが人間の近くにいると、

ダンディはススっと寄って来て

間に割って入ります。

 

除け者にされた感じが

するのでしょうか、

ジャックは頭を上下に振って

納得が行かない様子を示します。

 

この様子がユーモラスで、

可愛かったりもするのですが(*^.^*)

 

またある時には、

 

のんびりしているダンディに

ジャックはちょっかいを出し、

ダンディに威嚇されます。

 

ダンディは嫌がって

怒っているのですが、

ジャックはちょっかいを

繰り返します。

 

 

施術前にお話をした際、

彼らの様子については

飼育員さん達もかなり

気掛かりに思っていた事が

分かりました。

 

2頭は元々

仲が良いはずなのですが、

ジャックとダンディ、食事中.

 

ここのところどういう訳か

こうした小競り合いが

パターン化したように

なっており、

 

小屋や馬場という

安心できるはずの

日常空間の中に居ても

どちらもなかなか

寛いだ状態に

なれずにいることや、

 

ダンディがイライラしていると、

ジャックもそれに合わせる形で

緊張感が高まっていくこと、

 

ジャックはダンディの

八つ当たりのはけ口に

なっている様に思えること、

 

…などと言った

状況があることも、

分かりました。

 

 

ジャックにはもう一つ、

気になるところが

ありました。

 

それは、人間に対して

心理的にどことなく

距離があるように

思えることでした。

 

これはあくまで

私見ではありますが、

 

もし、この距離感が

ジャックの元々の性質に

適っている場合には、

「クールな馬なのね」

と思うだけだと思うのです。

 

観ているこちら側が

そこに違和感を感じて

気になると言う事は、

 

本来の状態から何かが

ズレている為ではないか

と思うのです。

 

 

ジャックの関心が

ダンディに集中していると

考えられることや、

 

ペットではなく

仕事仲間として、

 

ポニー達とは適切な距離を保ち、

風通しの良い関係性であることを

大切にしているという、

 

飼育員さん達の思慮ある姿勢を

加味して考えても、

 

10年以上もの長い間

人間と密接に関わりを

持ち続けているのに、

人間との間に何となく

隔たりがある様に見えるのは、

 

もしかしたら

ジャックが本来の性質を

何らかの理由があって

発揮しにくい状態に

いるためなのではないか、

と言う気がしていました。

 

 

 

問題を、「身体」の次元に落とし込む

 

問題行動の原因を探るという

目的のあったダンディと異なり、

 

ジャックの施術は

目的がはっきりして

いませんでしたが、

 

飼育員さん達にとっても

私にとっても気掛かりだった、

コミュニケーションや

他者との距離感といった事柄が、

その目的に関連しているのだろう

と思われました。

 

 

問題が現れたのが

行動面であれ心理面であれ、

 

それに対応する現象は

何らかの形で

物理的な身体にも生じています。

 

実例を挙げて話そうと思うと、

それだけで一つの記事になる程

長い話になってしまうので、

ここでは割愛しますが、

 

今までの施術経験を通して、

心・身体・精神は

異なる次元の機能でありながら

常に互いに同期し合っており、

 

それぞれの現れ方は違っても、

実は同じ意味内容のことが

各次元で生じていると言う事を、

身体から教わって来ました。

 

 

ジャックの場合もおそらく、

コミュニケーションや距離感という

心理面で生じている問題は、

ジャックの「身体構造」に

何らかの形跡を残しているはずです。

 

施術を通して、

それがどんな現象として

立ち現われているのかを

発見し、理解できることは

施術の醍醐味であり、

 

施術者にとってはもちろん、

施術を受けて下さる方や

施術に立ち会う方にとっても、

興味の尽きない豊かな体験を

与えてくれます。

 

 

 

信頼を得るには、信頼すること。

 

ジャックの施術を行う上で

まず問題なのは、

 

ジャックとの間に

どうやって信頼関係を築くか?

ということでした。

 

 

彼は、人との間に

心理的な距離感を

持っているように

見えるだけでなく、

 

人に触られることも

嫌がっていました。

 

これでは、

施術をすればかえって

心身の緊張感が増すだけで、

良い形で手助けをするのが

難しそうです。

 

そこで最初に行ったのは、

人間に触られる事が

心地良いと知ってもらう事でした。

 

 

 

ここで用いたのは、

ダンディの施術でもご紹介した

「キコウ」です。

 

キコウは

梁構造を持つ馬の脊柱の中で

最も高い位置にあり、

頸椎と胸椎の境目に当たります。

馬のキコウの位置

 

キコウへのマッサージは、

馬達にとっては

手の届かぬ痒い所を

掻いてもらっている感覚に

かなり近いようで、

 

馬の中には

ヨダレを垂らさんばかりの

悦楽の表情になる馬も

いる程です(^▽^;)

 

やり方は単純明快。

痒い所を掻くように

指の腹でキコウを

さするだけ。

 

さする際には、

骨格のアウトラインを

掘り起こしていくような

イメージで行うと、

より効果的です。

 

 

ジャックは最初こそ

面食らっていた様でしたが、

 

次第に気持ち良くて

我慢できない様子になり、

 

首をぐ~っと伸ばして

キコウをこちらに

差し出すようにすると、

 

鼻先をぎゅうっと尖らせ、

口をはむはむと

活発に動かし始めました。

グルーミング時に、鼻先を尖らせる馬

 

鼻先に力を入れて尖らせるのは、

自分も相手の痒い所を

掻いてあげるためです。

 

その鼻先と歯を上手に使って、

馬達はグルーミングを行います。

 

思っていたよりもずっと早く、

「僕もグルーミングやってあげるよ!」

とジャックは意思表示をしてくれました。

 

 

次に、胸の方へと

手を移動しました。

 

胸に手が触れた途端、

ジャックはくるりと

後ろを振り返ります。

 

わざわざ

目で見て確かめる

その仕草には、

 

何をされているのか

すごく気になっている、

 

もしくは、

そこを触られるのは嫌だ、

という意思が表れていました。

 

 

その気持ちを尊重して、

反射的にスッと

手を引きました。

 

手が離れたのを確認すると、

ジャックは前に向き直ります。

 

視線が逸れたので、

ふたたびそっと

手をジャックの胸に

当てがいました。

 

また嫌がったら、

同じ様に繰り返すつもりでしたが、

 

今度はジャックは

わずかに耳を動かしただけで、

後ろは振り向きませんでした。

 

ジャックの身体からは

警戒と緊張感も

消えたように感じられ、

 

人間に触られることを

受け入れたのだと、

分かりました。

 

 

「いつも、お腹なんて

嫌がって触らせないんですよ~!」

 

と、飼育員の緑川さんは

驚いた声を挙げました。

 

同じく飼育員の平島さんは、

この時のやり取りから

深い意味を感じ取ってくださったそうで、

 

馬の顔色なんか見なくても良い

と教えてくれた人がいて、

そうなのだろうと思っていました。

 

でもジャックは、

顔色を見て欲しい馬

だったんですね。

 

自分の出したサインを

ちゃんとキャッチしてくれたと

あの瞬間に感じたことで、

ジャックは飯島さん(:私です)を

信頼したのだと思いました。

 

そして、人間とも

コミュニケーションが出来るのだと、

理解した様に見えました。

 

後日、こんな風に

話してくれました。

 

 

ジャックとのやり取りは、

わずかな時間の間に起きた

ささやかなものでした。

 

それを細かく観察し、

そこから深い気付きへと

理解が繋がって行ったのは、

 

平島さん達が日頃から

ポニー達の一挙手一投足に

意味があることを感じ取り、

 

 

それを理解しようと

努力する姿勢を、

持ち続けているからこそ

だったのだろうと思います。

ジャックと平島さん

遺跡の調査員だった平島さんの観察眼は、どんな細かい差異も見逃さない、鋭さと確かさを持ちます。

 

 

ジャックが早い段階で

信頼を示してくれた理由は、

 

今になって考えると、

平島さんが言及して下さった

ジャック自身に生じた理解の他に、

3つの要素があったと思います。

 

一つは、

最初に触れたキコウが

実はジャックにとっては

鍵になる重要な部位だった点。

 

これについては、

施術の過程を記述する中で

触れます。

 

二つ目は、私自身の

馬に対する信頼、

 

三つ目は、場の設定です。

 

 

 

信頼は、心地よい「間」を生む

 

私は20代の頃、

日本固有種の馬達と

仕事も寝食も

共にしていました。

 

6年半の間、馬達と

どんな風に向き合っていたか、

それはまたの機会に

お話出来たらと思いますが、

 

その年月の中で、

私は馬達、とりわけ

和種馬やポニーなどの

目線の近い馬達に

強い親近感を持ち、

深く信頼を感じる様に

なって行きました。

 

ジャックと向き合った時、

私の中にはこうした馬達への

無条件の信頼がありました。

 

そして、それは

彼らなら必ず「理解」しようと

耳を傾けてくれる、

という信頼でした。

 

 

 

もし、人間が

馬を信頼していないと、

 

人間は自分の意図に

従わせようと焦り、

力んで力づくになります。

 

逆に、馬には

人間が言わんとすることを

理解しようとする意識と

能力があると信頼していれば、

 

馬の反応の仕方が

自分の思ったような

現れ方ではなかったとしても、

 

その馬が彼なりの応答を

能動的にしてくれるまで、

見守り、待つことが出来ます。

 

待った上で、やっぱりまだ

理解できていないと分かったなら、

 

その時は伝え方を

もっとシンプルにして、

馬の理解しやすい形に

変えて行けば良いのです。

 

 

待つことは、

やり取りにちょっとした

「間」を生み出します。

 

その「間」から、

馬は考える余裕と

判断する自由があるのを

感じ取ります。

 

人間が馬を

信頼しているかどうかも、

こうしたわずかな「間」によって

馬には伝わるものだと思います。

 

 

 

変容の場としての施術

 

三つ目の要素として挙げた

「場の設定」は、

施術を行う上で

とても重要な要素です。

 

施術は、

施術を受ける人や動物にとって

「変容」の場です。

 

変容の過程は、言わば

従来の自己がまとっていた

様々な意味での「形」を

脱ぐことですから、

無防備な状態でもあります。

 

その状態にあって

変容が滞りなく進むためには、

蝶にとっての蛹や繭のように、

守られた安全な場、

空間が必要です。

 

特にジャックのように

繊細な性質の場合には、

周囲の環境に影響を受けやすい為、

意識的に場を選ぶ必要がありました。

 

 

ジャックを繋留するのは、

飼育員さんの提案に従って、

馬場の入口にしました。

 

馬飼舎では、馬場は

馬小屋と一体になっていて、

 

馬場の奥に馬小屋があり、

馬小屋の入口は

馬場の方を向いています。

 

つまり、ポニーを

馬場の出入口につなぎ、

顔が馬場の中へ

向くようにさせると、

 

そのポニーの目には、

馬場の向こう側に

大きく戸を開いた我が家と、

 

その中でのんびりくつろぎ、

時折うつらうつら居眠りする

もう一頭のポニーの姿が

映ります。

 

目の前には、安全な小屋と

のどかな情景。

 

ポニー達の心は

安心と余裕を

感じられるはずです。

 

 

それに、

この日は三が日で、

 

馬飼舎の周辺は

落ち着いた空気に

包まれていました。

 

この場にいる人間は、

ジャックが良く知っている

飼育員さん達と、

施術者の3人だけ。

 

馬場から見える道路も

ほとんど人の気配がなく、

風も穏やか。

 

何かが視野をかすめたり

怪しい物音がしたりして、

ジャックが驚くことも

ありませんでした。

 

ジャックが安心して

リラックスできる環境、

安全を感じられる

空間であったことで、

 

ジャックの意識はおのずと

自分がされている事に集中し、

 

施術に対して受け身ではなく、

能動的に参加する姿勢に

なっていたのだと思います。

 

 

 

ジャックの本質

 

キコウのマッサージに対する

ジャックの反応は、

 

ジャックが身体的な感覚を

素直に表現する性質であり、

 

内側で感じたことを

隠しておけない、

 

よく言えば

オープンで明るく、

 

場合によっては

直情的になりやすい傾向性を

表していました。

 

 

ジャックの性質が

はっきり見えて来ると、

今までの状況も

整理し易くなります。

 

たとえば、

ダンディがイライラしている時に

一緒にイライラしていた状態は、

 

ダンディに負けまいと

我を張るような

積極的な反応とも思えますが、

 

繊細な性質のせいで

ダンディのイライラに

無自覚に心理的な侵食を受け、

 

本来は自分のものではない

そのイライラと

一体化してしまい、

 

それが無意識的に

ジャックの行動となって現れた、

と受け止めることも出来ます。

 

言うなれば、ジャックは

外部からの影響に

大きく揺さぶられ、

 

実は自分の意思とは

関わりの無い所で

行動させられていたのかも

知れません。

 

 

もしここで、ジャックの肉体や

エネルギーフィールドが

十分に安定した状態であれば、

外界にはそれほど強く

影響されずに済むはずです。

 

(安定したエネルギーフィールドは卵形で、

安定した身体の細胞は

球形であると言われています。

 

卵も球も、外からの刺激に対して

物理的かつ構造的に

強い抵抗力を発揮する形であり、

 

エネルギーや身体の安定性は、

外部からの影響の受け止め方、

すなわち外部との関わり方に

直結している事が分かります。)

 

ジャックは、どこかに

外界からの干渉を許す、

弱く感応しやすい部分を

持っている可能性が強そうです。

 

だとしたら、

それは身体のどの辺りに

潜んでいる可能性が

高いのでしょうか?

 

範囲を絞り込むために、

ジャックの日頃の体調について

平島さんにお聞きしました。

 

 

ジャックは

細くて柔らかい毛並みのせいか、

寒さが苦手です。

 

(細くて柔らかい毛の馬は

皮膚も薄めで発汗しやすく、

暑い気候に適応します。)

 

身体を温める為なのか、

寒い時期にはよく跳ねます。

 

寒い日の朝は、

朝から怒っていたりもします。

 

 

…やっぱり、

気持ちが身体に出ちゃう

タイプなんですね(^▽^;)

 

 

水はいつも沢山飲んで、

おしっこはほぼ無色のものを

沢山します。

 

ボロ(糞)は、表面がまるで

コーティングされている様に

コロコロで、形がしっかりしています。

 

 

おぉ!

なんたる快便!ヽ(^。^)ノ

 

消化器系、泌尿器系は、

共に良好に機能しているようです。

 

それならば、

これらの臓器が

納まっている腹腔も、

安定した状態にある

と考えられそうです。

 

(腹腔や胸郭などの

臓器を納めている「器」の状態は、

臓器の状態と直結しています。

 

例えば胸郭の厚みが

薄くなっているような場合は、

肺も上手く膨らみませんし、

心臓は狭苦しさを感じたりします。

 

そして、

心臓が感じている狭苦しさを、

私たちは不安や焦燥感のような

心理的な感覚として、

共有していたりもします。)

 

腹腔に問題を抱えていた

ダンディと違って、

 

ジャックは仕事の中で

子供たちを乗せる事がなく、

 

日常的に、

背中や腰にかかる荷重を

耐える必要がないため、

腹腔の安定性と健全さが

保たれやすいのかも知れません。

 

少なくとも、

弱さを抱えているのが

腹腔である可能性は、

低そうです。

 

 

 

姿勢と心のつながり

 

いよいよ、

ジャックの身体に

どんな現象が生じているかが、

明らかになって行きます。

 

 

始めに、

身体に生じている

歪みや緊張を

細かく調べて行きます。

 

お尻→背中→頭部を結ぶ

体幹の背側面を調べ、

 

次はお腹→胸へと

体幹の底面を視ました。

 

背側面では、

皮膚や筋肉、筋膜などの

ジャックの体壁を形成する組織は、

後ろから前への方向性を持って

ゆるみを生じていました。

ジャック-背側のゆるみ

 

底面(腹面)では、組織は

前から後ろへ動きます。

ジャック-腹側のゆるみ

 

体組織の各部に現れる

方向性を持った緩みは、

 

身体に生じている歪みや

姿勢の偏りの現状を、

忠実に反映しています。

 

すなわち、背側では

組織は頭の方へ向かっており、

 

これはジャックの姿勢が

前のめりになりがちなことを、

 

腹側で見られた

鼻先からお腹へ向かう

後ろ向きの方向性は、

 

鼻面をお腹に

近づけるようなイメージで

身体を丸める体勢を取っている事を、

 

それぞれ示唆しています。

 

つまりこれらは、

胸をすぼめながら

背中を丸める姿勢を示しており、

ジャック-上下両側のゆるみの方向性

 

ジャックが意図していなくても、

外から身を守ろうとするような

防衛的な構えに、身体が

自ずとなってしまっていることを

示しています。

 

 

今度は、体幹の

捻れの状態を調べます。

 

体幹の上半分(背中の方)は

全体的に左へ回転します。

ジャック-背側の捻れ

 

体幹の下半分(お腹の方)は、

胸郭部分では左への回転。

腹部は、右へ回転しています。

ジャック-腹側の捻れ

 

これらを整理すると、

 

体幹の前半分では、

胸郭の左側面に向かって

上下両方から

力が集まっている状態を

示しており、

 

体重を左の前脚だけに

負荷させている様子です。

ジャック-体幹全体の捻れ

 

他方、体幹の後ろ半分は

反時計回りにぐるりと

一回転しており、

 

後肢には体重を乗せず、

力を受け流して

いるかのような印象です。

 

 

骨盤は、

全体的に組織が

後ろの方へ向かっており、

 

頭の方へ向かっていた脊柱とは、

背骨と骨盤の境目:腰仙関節で

前後に引っ張り合っている状態です。

ジャック-背部と骨盤のゆるみの方向性

 

これは、背を丸めて

胸をすぼめる姿勢とも、

つじつまが合います

 

この姿勢を取るには、

馬の場合には骨盤を幾分か

下へ落とす必要がある為です。

 

 

最後は、

4本の肢(あし)の状態です。

 

前肢体(肩甲骨と前肢)では、

組織は下から上へ向かいます。

 

後肢も同じように、

下から上へ向かっています。

ジャック-四肢のゆるみの方向性

 

四肢のすべてが

上へ向かう力を

帯びていると言うことは、

 

ジャックの肢は

大地との接触が

希薄になっており、

 

グラウンディングしたくても

できない状態だったと

想像する事が出来ます。

 

こうした

足元の不安定さは、

不安や緊張を感じやすい

ジャックの心理状態と

合致しているように思えます。

 

 

このようにして、

身体構造の主要な部分における

組織の歪みを調べ、

 

今度はそれらを全て

比較して行くと、

 

全身の歪みの原因が

どこにあるのかを、

絞り込むことが出来ます。

 

 

ジャックの場合は、

全身の歪みの原因は

左の肘関節に特定されました。

 

より詳しく言うと、

肘関節の内側のくぼみで、

人間で言うなら

腋窩に似た構造の所です。

 

人間の腋窩は

肩関節の内側ですが、

 

四足動物の場合は

肩関節は胸郭にぺったりと

張り付いた構造になっており、

 

腋窩のような窪みがあるのは、

肘関節の内側です。

 

これを腋窩と呼べるか

分からないので、

ここでは便宜的に

肘の内側窩と呼びます。

馬の肘関節の内側窩

 

ジャックの

左肘の内側窩では、

組織があまって

たるんでいました。

 

それに伴って

左胸の幅も広がり、

左右の胸幅が

不揃いになっていました。

 

緑川さんにも、

他の部分の組織と

手触りが違うことを、

触って確認してもらいました。

ジャックと緑川さん

動物看護士でもある緑川さんは、感覚と感性の人。 体組織の感触を触り分けるのには、訓練やセンスが必要だったりします。

 

 

 

ジャックの自己防衛

 

施術の相手は

小さいポニーなため、

作業中はどうしても、

中腰になります。

 

身体の軸を安定させるために、

左手はごく軽く

キコウに乗せていました。

 

その状態のまま、

左肘の内側窩への

アプローチを開始します。

 

 

左肘の内側窩の中央には、

最も組織がゆるんでいる

一点がありました。

 

そこを指先で触った瞬間、

左手を乗せていたキコウが、

フゥッと下にさがりました。

 

そんなこと、あるの!?

と思われる方も

いるかも知れませんが、

あるんですよ~(*^^)

 

これは何が起きたかと

言いますと、

 

原因部に触れたことで、

キコウの緊張が瞬間的に解け、

構造的な変化が生じたわけです。

 

この際に触れた

最もゆるんでいた一点は、

身体からしてみれば

「待ってました!

そうなの、そこなのよ~」

と言うポイントだったのでしょう。

 

ジャックの身体は、

反応する機会をずっと

待っていたのだと思います。

 

キコウが下に降りたのに伴って、

胸郭内にもふわ~っと

寛ぎが広がって行きます。

 

これはもう本当に、

ふわ~っと言う感じが

手を通して伝わって来ました。

 

 

キコウの変化の仕方から、

今までジャックのキコウは

持ち上がり気味だったことも

分かりました。

 

キコウが緊張して

うわずっている状態は、

人間に置き換えれば

いかり肩に近いでしょうか。

 

肩を怒らせると

周囲に対して自分を

大きく見せる事ができ、

 

あるいは、自分自身が

大きくなったような感覚を

持つことが出来ます。

 

キコウの緊張は、

ジャックの防衛姿勢を支える

力の一つだったのでしょう。

 

一体ジャックは何に対して

自己防衛をする必要が

あったのでしょうか?

 

自分を除け者にすることのある

ダンディに対してでしょうか?

 

 

 

守りたかった、自尊心

 

2頭は以前、日野市の

河川敷近くの公園で

暮らしていました。

 

お隣のくにたちに

引っ越して来たのは

一昨年前のこと。

 

沢山の人達の尽力によって、

機能的で素敵な馬小屋が

農地の一角に用意されました。

 

小屋は馬場と一続きなので、

ポニー達は好きな時に

馬場に出たり小屋に戻ったり

自由に過ごせます。

 

それに、小屋の中には

ロフトがあって、

子供たちが泊まることも

出来るのです。

 

 

でも、

実際に生活して行く内に、

飼育員さん達には少し

気になる事も見えて来ました。

 

河川敷にいた時より、

全体のスペースは小振りです。

 

以前に比べると、

2頭が近くに

居すぎるのではないか、

 

そんな風に

感じる事がありました。

 

 

社会性が高いとはいっても、

馬同士の関係性は通常、

個人主義の傾向を

色濃く持っているように思えます。

 

一緒にいるけれど、

互いの領分は

ちゃんと守っている、

と言う節度ある関係です。

 

領分を守る為には、

心理学で言うところの

パーソナルスペースを、

お互いに守れるだけの

空間的な余裕も必要でしょう。

 

そう考えると、

ジャックとダンディにとっては

その余裕は不足気味なのかも

知れません。

 

互いの距離が近すぎると、

そのしわ寄せは

立場の弱い方へやって来ます。

 

ジャックが自己防衛を

せざるを得なかったのは、

ダンディとの間でストレス を

感じていたからかも知れません。

 

 

キコウの緊張が解けたことで、

ジャックのリラックスは

さらに深まりました。

 

身体の緊張がゆるみ、

体内の空間が広がると、

 

それは身体全体に

深い安堵感をもたらします。

 

今や、ジャックの目は

ウットリと眠たそうで、

なかば閉じかけています。

 

「こんなジャック、

今まで見た事がない!」

 

ふたたび、緑川さんから

驚きの声が挙がりました。

 

 

原因部の左肘内側窩へ触れると、

進むべき道順を示すように

次なるサインが現れました。

 

次のサインに触れると、

また次が現れます。

それを丁寧に

追いかけて行きます。

 

次々現れるサインの正体は

一体何なのかと言うと、

 

身体構造の中に

幾層にも重なり

隠されている緊張や歪みが、

 

どのように形成されて来たかを

示す情報であり、

 

臓器と体壁とを

一つに結び合わせている

筋膜によって

 

身体構造の奥から体表へと

伝達される情報なのだろうと、

私自身は理解しています。

 

 

次々と移動するサインを

追い掛けて行くと、

 

辿った道筋はやがて、

今まで見えていなかった

不思議な地図を、

身体の表面に描き出します。

 

ジャックの左肘内側窩から

肘関節の後ろ側へまわり込み、

 

今度は少し上へ上がって、

肩関節へ出ます。

 

肩関節の接合面に沿って

関節の後ろから前へ移動すると、

 

ふたたび上へ上がり始めます。

肩甲骨の前縁に沿って、

進んで行きます。

 

肩甲骨前縁の上端に来ると、

前方へ曲がって頚部へ。

 

頚部後方の

広い三角形になっている

部位に辿り着くと、

そこには不自然な

深い凹みがありました。

 

サインの移動は、

ここで止まりました。

 

 

しばらく待っていると、

体内で波のように

変化が広がり始めます。

 

この凹みのすぐ上には

タテガミがあり、

 

本来は上に弧を

描くはずのタテガミも、

そこでは凹んでいましたが、

 

体内で波のように

変化が広がって行くのと共に、

凹んでいたタテガミのラインも

上向きの弧へと戻り始めました。

ジャック-過程①

 

上向きの弧を描くタテガミは、

自信と尊厳をイメージさせます。

 

その回復を待っていたかのように、

サインが再び動き始めました。

 

次は、

キコウへ向かって行きます。

ジャック-過程②

 

キコウへ到着すると、

ふたたび

動きは止まりました。

 

しばらくして

今度は胸郭が上へと

持ち上がりはじめると、

 

それに伴って

胸郭内の大きな空間が

軽やかさを取り戻して行きます。

 

それは、

今まで中身が詰まり、

張りつめていた胸郭から、

密度や圧力が抜けて

軽くなって行く感触でした。

 

 

身体は

変化を十分に起こす為に

止まって時間をかける事を、

時折、必要とする様でした。

 

胸郭に変化が生じると、

今度はキコウから真っ直ぐ

下へと下り、

 

肩甲骨の中心を通って

肩関節の真ん中へ出ました。

 

そこから

関節に沿うような形で

後ろへ進むと、

 

肘関節の後端まで来て停止。

これで3度目の停止です。

ジャック-過程③

 

ここではまず、

肩甲骨に変化が現れました。

 

 

本来なら、

馬の肩甲骨と上腕骨は

胸郭に寄り添うような

構造になっています。

 

ジャックの場合は、

左肩甲骨の下部から

肩関節にかけて

胸郭から浮き上がり、

隙間が生じていました。

 

その隙間が、今は

閉じて行きつつあります。

 

まるで肩甲骨と上腕骨が

自分から胸郭に

吸い付いて行くかのような

迷いのない能動的な動きです。

 

 

肩甲骨と上腕骨が

浮いていた代わりに、

肘の後端では

胸郭に向かって

閉じた状態でしたが、

 

肩甲骨と上腕骨が

閉じて来たのに伴って、

肘の方では逆に

外へ開いて行く変化が起き、

 

肘をしっかりと

外へ張ることができる様に

形が回復して行きます。

 

 

この変化を受けて、

今度は上腕骨が

上下に伸び始めました。

 

今まで上腕骨には

上下から圧縮が加わっている様な

状態だったようで、

 

その外側からの圧縮力が

解けるにつれて、

上腕骨にはググッと

内側から力が入って行き、

 

体幹をしっかりと

支え上げる力強さを

取り戻して行きます。

 

横で観ていた平島さんも、

肩から腕にかけて

変化が生じたことに気付き、

目顔でうなずきました。

 

 

圧縮の生じていた上腕骨は、

歪みの検査の際に

ジャックが最も敏感に

嫌がったところでしたが、

 

普段からそこを触られるのを

一番嫌がっていたのは、

そういう事だったんですねと、

 

緑川さんも合点が行った様子で

教えてくれました。

 

 

 

上腕骨が圧縮されていると、

身体の重さを前肢で

効率的に支える事が出来ません。

 

そのため、

ジャックは肘を胸郭に引きつけ、

肘でロックするようにして

体幹を支え上げていたのでしょう。

 

肘が内側に寄った為に、

肩の関節は胸郭から離れ、

浮き上がった状態に

なっていたようです。

 

胸郭そのものが

下に沈みこんでいたことや、

タテガミ:首の根元が

下向きの弧を描いていたことも、

 

上腕骨の支え上げる力が

弱っていたことによって、

一緒に引き起こされていた

現象だったと分かりました。

 

首の根元と胸郭が共に

沈み込んでいた状態は、

 

ジャックにしてみれば、

首根っこをグッと下に

押さえ付けられている様な感覚として、

経験されていたのではないかと思います。

 

これは

何かに屈している姿勢であり、

 

この姿勢を持っている事で、

自尊心が傷つきやすくなることが

想像できます。

 

 

周囲が沈み込んでいる中で、

梁構造を持つ背骨の

頂点に位置していて

最も支持力の強いキコウだけが、

緊張を帯びて持ち上がっていた理由は、

 

一つには、

沈み込んだ体幹前方部を

何とか持ち上げようとして、

ジャックの身体自身が

工夫を行った為と考えられます。

 

そしてもう一つ、

キコウを高い位置に

保つことで、

 

首根っこを押さえられて

自尊心が傷つきがちだった

ジャックの気持ちも、

支えられていたのでは

ないでしょうか。

 

 

ジャックの身体は、

窮屈さの中に在りました。

 

そして、この

体内に生じている窮屈さが、

 

ダンディとの関係性を、

より窮屈なものに

感じさせていたのかも知れません。

 

 

肘の後端で停止していた動きは、

肘内側窩の中央:

始まりの地点に戻って来ました。

 

左肘の内側窩で

たるみんでいた組織は、

張りを取り戻し、

 

左だけ広かった胸の幅も、

左右が揃いました。

 

施術は終了しました。

 

ジャックと視線を合わせると、

ジャックは目を

キラキラと輝かせていました。

 

 

 

取り戻した自信

 

上の画像は施術前、

下は施術後の様子です。

ジャック 施術前

ジャック 施術後

 

施術前も、

良い姿勢を撮ろうと思って、

待っていたんですケドネ(;^ω^)

 

でも、しばらく待っても

ジャックは休めのまま。

仕方がないので、その状態をパチリ。

 

それが施術後には自然と、

ちゃんとした立ち姿を

見せてくれています。

 

 

全体の印象の違いとして、

施術後には力強さが出ているのを

見て取れるかと思います。

 

力強さは、どこから

来ているかと言うと、

 

まず、

左右の前肢のひづめが

施術後にはきっちり揃っていて、

胸郭を両肢でしっかりと

支えています。

 

そのため、

胸の前のラインもスッキリと

きれいに上に向かって

立ち上がっています。

 

 

背中のラインは、

間延びしているように

長く見えていたのが、

 

立体的でコンパクトになり、

輪郭がはっきりして

滑らかな弧に変化しています。

 

これは力強い曲線なので、

背中に掛かる重さを

しっかり支えられるでしょう。

 

また、

施術前には浮き上がり

緊張がある事を示している尾は、

施術後には根元から

すとんと閉じ、

 

後肢もどっしりと

グラウンディングしています。

 

 

前後肢がしっかりと

体重を支えられる様になり、

背中の曲線にも

力強さが戻ったことで、

 

胸、首、頭の位置もおのずと、

高く持ち上がっています。

 

そして今は自発的に、

人間の方へ視線を向けています。

 

顔を挙げた

ジャックの姿勢からは、

自信のようなものが

感じられると思いませんか?

 

 

施術が終わり、

ジャックは平島さんに誘導されて

小屋の中へと帰って行きました。

 

その時の姿はまるで

平島さんにピッタリと

付き従っている様で、

 

人間と一緒に居て

落ち着いた気持ちでいるのが

歩き方からも分かります。

 

小屋の中では

ダンディが待っていましたが、

ちょっかいを出すどころか、

ダンディを気にして

視線を送ることもありませんでした。

 

ジャックは自分の小屋の

窓際に立つと、

実に穏やかに

うっとりと目をつぶり、

 

窓から差し込む陽を

頬に受けながら、

内側の感覚をゆったりと

味わっているように見えました。

 

 

 

馬の臨床① 馬の施術の過程と、その変化:乗用ポニー・ダンディ編 ~3月の営業予定

 

前回の記事では、

馬の施術に先立って、

 

馬体の構造について

詳しくお話ししました。

https://inemurino-ki.com/2016/01/31/space-structure-and-horse/

 

さて、いよいよ今回は

施術そのもののお話です!ヽ(^。^)ノ

 

 

と、その前に、

3月の営業のお知らせを

ちょっと挟ませてくださいね~!

 

 

 

3月の営業予定

 

3月は、21日(月・祝)、26日(土)

臨時でお休みとなります。

それ以外は、通常通り営業いたします。

 

開院時間 : 11時~20時

定休日 : 毎週水・日曜日(祝日も開院します。)

 

施術の最終受付は17:00

とさせて頂いております。

ご事情のある場合には、

17:30まで対応可能です。

ご相談くださいませ。

 

ご予約のない時間帯に関しては、

臨時でお休みとなる場合があります。

ご予約の際には、なるべくお早めに

ご連絡を頂けますと幸いです。

 

 

 

乗用ポニー:ダンディへの施術と、その変化

 

年末から年始にかけて

春のような暖かさが続き、

施術の当日も、風のない

穏やかな天気に恵まれました。

 

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昼過ぎ、

早々と梅の花が咲き始めていた

谷保天満宮へ立ち寄り、

その足で2頭のポニーが待つ

「馬飼舎」へ。

 

馬飼舎(まかいしゃ)は、

谷保の天神さまから

歩いて5分ほど。

 

国立市の中にありながら

美しい水路や

田畑の残る谷保地区は、

懐かしい日本の風景そのまま。

 

訪れるたびに、

ほっとした気持ちになります。

 

 

 

ポニーの異変

 

施術に入る前に、

ポニーたちの様子を

詳しく伺いました。

 

 

馬飼舎には、

ポニーが2頭います。

 

彼らは、おもに

国立市と日野市の幼稚園や保育園、

障害児施設などを巡って、

子供たちと交流する仕事をしています。

 

2頭の内、

1頭は黒毛のポニーで、

名前はジャック。

 

もう1頭は白毛で、

名前はダンディ。

 

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2頭は、それぞれ

受け持つ仕事が違います。

 

乗り馬として

子供たちを乗せるのはダンディ。

 

走ったり

ジャンプする姿を見せるなど、

自然の生態としての馬の在り方を

子供たちに知ってもらうのが、

ジャックの役割。

 

 

2頭への施術は、

彼らの役割の違いを

反映したものであり、

 

それぞれ施術の意味の

異なるものだったと思います。

 

そこで今回はまず、

ダンディの臨床について

お話したいと思います。

 

 

 

孤高の仕事人

 

オーストラリアの

ショーホースの血筋にある

ダンディは、

おっとりしていて、とっても真面目。

 

身体は小さいですが、

少し大きな体格の子供や

怖がっている子供だって、

背中に乗せて静かに歩きます。

 

ちょっとムッツリした感じは

あるけれど(^▽^;)、

我慢強い馬なんです。

 

人からの指示によく耳を傾け、

文句も言わずに

黙々と仕事をします。

 

 

とは言え、人との距離は

あまり近い方ではありません。

(ムッツリなだけに…)

 

ダンディとは

何度か会っていますが、

自分から人間に

ベタベタと近寄るタイプではなく、

 

触ろうとすれば触らせるものの

仕方ないな…、といった空気を

分かりやすく出している様な…(^▽^;)

 

あたかも、孤高の仕事人

と言ったところでしょうか。

 

 

 

いつもは、我慢出来るのに…。

 

施術のご依頼を頂いた時、

私はてっきり、

問題を起こしたのは

ジャックだろうと思いました。

 

役割の上からも

自由気ままでいられる

ジャックなら、

 

人間の意に沿わない行動を

起こす事も当然あるだろうと

思ったからです。

 

ところが、

問題が生じたのは、

我慢強いはずの

ダンディの方でした。

(ゴメンネ、ジャック(^▽^;) )

 

 

 

今から3か月ほど前の

2015年11月初旬。

 

何度も行っている幼稚園で、

ダンディはいつものように

子供たちを乗せていました。

 

怖がりの子が

乗る順番を迎え、

ダンディの横に置かれた

台の上に立ちます。

 

こわごわと、

何度も何度もためらいます。

 

それでも、

どうにかこうにか

ダンディの背中に

腰を下ろしかけました。

 

そのお尻が

鞍に触ったかどうかの、

まさに一瞬のこと。

 

ダンディは急に、

ワッとばかりに

前に飛び出しました。

 

パニックだったのか、

そのまま園庭も

走り回りました。

 

(怖がりのお子さんは、

飼育員さんが横から

サッと抱き上げたので、

ケガもなく無事でした。)

 

 

逃げっ放しにしておくと、

馬には逃げ癖が

つく可能性があります。

 

乗れなかった子供も、

恐怖心を持ったままに

なってしまいます。

 

再び、同じように

乗ろうと頑張ったけれど、

あえなく失敗。

 

3度目。

台は使わずに、飼育員さんが

その子を抱えて鞍に乗せ、

何とか成功。

 

 

2頭のポニーと

2人の女性飼育員とで行う活動は

10年に及びますが、

こんなダンディを見るのは

初めてのこと。

 

当のダンディはと言うと、

飛び出してしまったことに

自分でも驚いている様に

見えたそうです。

 

 

 

背景をさぐる

 

この時の様子について、

お二人から

より詳しい話を伺いました。

 

 

馬体の横にいて

子供を抱き上げた

飼育員の平島さんは、

ダンディが前に飛び出した際に、

右後肢で後ろを蹴りながら

跳ねたのを見ていました。

 

ダンディの頭方にいて

引き綱を持っていた

飼育員の緑川さんは、

ダンディが前に飛び出して

子供を怖がらせない様にと、

無口※1をグッと下に押さえました。

 

するとその瞬間、

ダンディは頭を反射的に

ビクンと挙げたそうです。

 

※1 馬を繋留したり引いて歩く時には、
引き綱と呼ばれる太くて短い綱を用います。
その引き綱は、馬の頭部~口のまわりにはめている無口【むくち】という
簡単なつくりの馬具に繋いで使用します。)

馬の無口

 

小さな動きですが、

こうして観察された動きは、

ダンディの状態を理解するための

重要な手がかりを与えてくれます。

 

一つ一つの動きには、必ず

馬がそれを行う必然性があります。

 

それがどんなに

些細なものであっても、

必ずヒントになります。

 

 

人間の施術なら、

どの部位でどんな感覚がするかを

出来るだけ詳細に聞くことで、

症状の背後に隠れた核心を

類推することが可能です。

 

その点、馬は話せないので、

動きや体調などの

馬の身体が示す現象から

類推して行くしかありません。

 

ダンディの症例では、

飼育員さん達が

日頃から細やかな視線で

ポニー達を見守っていたこともあり、

 

施術を始める前の段階で、

問題の核心が何なのかを

ある程度理解することが出来ました。

 

 

では!

実際に一つ一つの動きから

どんなことを読み取ることが

出来るのか、

 

詳しく分析して行ってみましょう!(^^♪

 

 

 

身体の動きと内的感覚

 

重要な動きは、全部で3つ

出てきました。

 

ダンディが身体を

左に回転させたことと、

 

鼻面を下に押さえられた時に

反射的に頭を挙げたこと、

 

子供を抱えて乗せた時には

我慢できた、

という点です。

 

 

身体を左に回転させたのは、

引き綱を持っている人間が

左側に立っていたため、

と考えることも出来ます。

 

馬の引き方

 

それ以外に、

馬の身体自体が、

左に回転したくなるような

歪みや緊張を持っていた可能性も

考えられます。

 

 

頭を下に押さえられて

反射的に首を挙げたのは、

どこかに痛みを感じたから

という可能性もあります。

 

他に考えられるのは、

力による制止に対して

心理的に抵抗を感じて、

拒否反応を示した可能性です。

 

ダンディは逃げる際に

お尻をはねあげていますが、

 

この動きは

「この状況は気にいらない」

という意思の表明であることが多く、

 

反射的に首を挙げた動作と

併せて、

 

気持ちの抑えや我慢が効かない

何らかの状態が、

ダンディの中にあったことを

示唆しているように思われます。

 

 

さらに、こんな話も

飛び出して来ました。

 

>そう言えば

この出来事の10日ほど前、

ダンディが馬の輸送車から

降りた時のことです。

 

見た目には分かりにくいけれど、

そこは滑りやすいように

加工された地面だったんです。

 

いつもダンディは

車から降りる時に

少し弾みをつけるせいもあって、

地面で前脚を滑らせて

横転してしまいました。

 

 

身体のどっち側を打ったか、

覚えていますか?

 

>左右どちらかは

はっきり思い出せません。

 

でも、

特に後遺症はなかったようで、

その日の障碍者を乗せる仕事は

ちゃんと出来ていました。

 

 

痛がっている様子は、

なかったんですね。

 

>はい。

 

…でも今考えてみると、

1~2年ほど前から、

少しおかしい所が

あったように思います。

 

今回のように前に飛び出る

とまでは行かないけれど、

 

引き馬をして歩いている時に、

ダンディが引き手(馬を引く人間)

を中心にして

左に回転するように

動く事がありました。

 

そう言えば、

そうやってまっすぐ歩かない時は、

ほぼ決まって、怖がりの子供を

乗せていた気もします。

 

———-

 

 

左へ馬体を回転するのは

ここ数年の間の

癖になっており、

 

それがほぼ決まって

怖がる子供が乗る場面で

起きていたという点もまた、

重要な手がかりです。

 

一方で、今回、

飼育員さんが

子供を抱えて乗せた時には、

我慢して乗せています。

 

とすると、

ダンディが緊張を感じるのは

乗られること自体ではなく、

子供が「乗る」という

動作に対してかも知れません。

 

 

怖がりの子は、

傍で見ても可哀想なくらい

緊張してコチコチです。

 

こうした緊張感を、

馬達は「はだ」を通して

感じ取ります。

 

私たち人間だって、

怒ってムス~ッとしている人が

同じ空間にいたりすると、

何だかこちらまで

ムカムカが伝染して来たり

しますよね(^▽^;)

 

その場の空気を、

「はだ」を通して

感じ取っているわけです。

 

こうした、

身体の感覚を通して

相手の状態やその場の空気を

感じ取る力に、

馬達はとても秀でています。

 

自然の中なら、草食動物の生死は

この能力に掛かって来るわけですから、

当然ですよね( ;∀;)

 

 

ちなみに、ダンディが

人間の動きの固さではなく

心理的な緊張に

反応していたと考えたのは、

 

身体を打った当日も

障碍者を乗せる仕事は

ちゃんと行えていた為です。

 

緊張している子供が、

自分の背中に乗ろうと

こわばりながら近づいてくる。

 

この時すでに、

ダンディの身体には

ピリピリとした緊張感が

生まれます。

 

このピリピリ感はまるで、

子供の一挙手一投足を

見逃さないよう、

全身が張りつめたレーダーに

なっているようなものです。

 

 

背中にまたがる瞬間、

子供の緊張は

最高潮に達します。

 

その同じ瞬間、

ダンディもまた、

「はだ」を通して

その緊張感を共有します。

 

ダンディの身体で

実際に緊張が生じるのは、

おそらく

 

子供が乗ることで

最も刺激を感じる背中か、

子供が足でつい締めがちな

お腹の横の辺りと考えられます。

 

 

…おぉっ!(゚Д゚;)

 

お腹の横の辺りと言えば、

少し前に横転して

打ったところとも重なります。

 

かなり、アヤシイですねぇ…。

 

お腹に緊張が加わることが、

重複して起きているんですね。

 

これに加えて、お腹に

もともと弱さがあったりすると、

我慢が効かずに衝動的になったのも

合点が行くんですが…。

 

 

便通の状態とかは、

普段どんな感じですか?

 

>ダンディのボロ(糞)は

水っぽくてベチャベチャか、

線維質が多くて、形がすぐに

ホロッと崩れてしまうかの

どちらかがほとんどで、

丁度いい時はあまりないんです。

 

 

…ふ~む、やっぱり。

お腹は弱かったか~。

 

どうやら、今回の問題は、

お腹の辺りの緊張が

引き金になっていた可能性が

大きそうです。

 

 

 

施術① 気持ちをほぐす

 

施術の始めに

背中やお腹などに触れて、

ダンディの反応を観察します。

 

背中や腰の方は

大人しく触らせてくれますが、

お腹の方ははっきりと

嫌がられてしまいました( ;∀;)

 

動物は、

弱い所や痛みのある所に

触られるのを嫌がります。

 

 

比較的、

馬が好むポイントである

剣状突起やおへその辺りを、

ごく軽くさすりました。

 

剣状突起は胸骨の後端で、

そのすぐ後ろがみぞおちです。

 

横隔膜が付着する部分でもあり、

緊張が生じやすい所の一つです。

 

 

剣状突起に触れると、

ダンディの表情は

わずかに緩みました。

 

鼻先も、おずおずと

伸ばし始めます。

 

 

鼻先を伸ばすのは、馬達が

気持ちの良い時に見せる仕草です。

 

馬は社会性が強い動物で、

仲間同士でグルーミングをする

習性があります。

 

この時、

お互いにキコウと呼ばれる

背骨の一番高くなっている部分を

噛み合います。

 

その為、ここを揉んだり

掻いたりされることが、

大抵の馬は大好き。

 

気持ち良く感じると、自分も

相手にグルーミングをやり返そうと

鼻先をぐ~っと伸ばしはじめ、

口をモゴモゴ動かし始めます。

 

 

…ぐ~っと「伸ばす」と言うより、

勝手に「伸びちゃう」感じの

鼻先の様子を見ていると、

 

これは「やってもらったから

やり返さなくちゃ。」

と考えて行う動作ではなく、

 

ほとんど本能に組み込まれて、

自動的にやってしまう行動に思えます。

 

ダンディの場合は、

その半本能的な反応が、

おずおずとして

ためらいがちな様子であるのが

印象的でした。

 

何代も続く

ショーホースの血筋で

よく教化された乗り馬である

と言う事は、

 

人間が出す指示に

おのずと集中するように、

訓練された意識を持っている

ということでもあります。

 

その意識の在り方が、

本能的な欲動を抑える傾向性と、

関連しているのかも知れません。

 

…おっとっと、

話が脱線しちゃった(#^.^#)

 

 

 

リラックスした気持ちを

維持しやすいように

左手は剣状突起に触れたまま、

今度は右手で背中も一緒に触り、

 

刺激の量を増やして

触られることに

慣れてもらいます。

 

右手が腰仙関節へ触れた途端、

左手が触れていた剣状突起で

ふ~っと力が抜けました。

 

左右の手で、ちょうど

腹腔を大きく包んだ状態の時に

緊張感がゆるんだ。

と言うことは…

 

馬の剣状突起と腰仙関節

 

やっぱり、問題の核心は

腹腔にあるのでしょうか。

 

 

 

施術② 身体を読み解く

 

次に、身体構造を調べると、

これを裏付ける様な状態を

ここからも見て取ることが

出来ました。

 

 

身体に生じている

歪みや不安定性(動揺)を、

細かく調べて行きます。

 

まずは、背中。

 

ダンディの頭の前に立ち、

脊柱の両脇の状態を

確かめます。

 

脊柱沿いの組織は、

後ろから前へ向かう流れを

強く示します。

 

これを便宜的に、

皮膚・筋肉・筋膜を含めた

組織全体の

前方への「変位」と表現します。

 

変位の方向性から、

骨格の歪みの状態が分かります。

 

 

下顎からお腹の下にかけても、

組織は後ろから前への変位。

 

ダンディ-背部と胸腹部のアウトライン

 

この状態から分かるのは、

ダンディが身体的には

前のめりの傾向にあった、

と言うことです。

 

身体が前のめりだと、

心理的にはいつも

追われている様な感じを伴い、

焦ったり不安になりやすい

傾向にあったと考えられます。

 

 

一方、骨盤を調べると、

骨盤は全体的に後方への変位。

 

身体全体として見ると、

腰のところで身体が前後方向に

分断されているような感じです。

 

ダンディ-骨盤の変位

 

これだと、

前のめりで焦りがちな身体に

お尻の動きが付いて来ないため、

ダンディの中では

もどかしい感じが

生じていたかも知れません。

 

心理的な焦りが

助長されやすい状態だと

考えられます。

 

 

次に、

身体の捻れも見てみましょう。

 

体幹部を調べます。

(文中では、胸郭から骨盤にかけての
胴体全体を体幹とします。)

 

体幹の上面:背中と

体幹の側面:脇腹は、

全て左へ回転しています。

 

体幹の底面は、

肋骨のある胸腔と

肋骨のない腹腔部分とを

分けて調べます。

 

胸の下では捻じれは左へ。

お腹の下では捻じれは右へ。

回転の方向が異なっています。

 

最後は、骨盤。

これも左回転でした。

 

 

体幹の後ろ半分では、

全体的に左回転です。

 

これは、左腰と左後肢に

重心が乗りやすかったことを

示しています。

 

 

一方、胸郭においては、

回転方向は複雑。

 

ちょっと整理してみると、

 

胸郭の左側面には

上下から力が集まり、

体側を圧縮する形で

力が働き、

 

他方の右側では、体側を

上下に引き伸ばすような形で

力が働いています。

 

縮まる傾向の左体側と、

引き伸ばされた右体側、

と言った状態です。

 

体幹の捻れ-ダンディ

 

これは、特に左の脇腹に

強い緊張があることを

物語っています。

 

一方の右脇腹は、

踏ん張りの効かない状態です。

 

 

全体的に見てみると、

左半身で全荷重を負うような

パターンが、

身体の構造そのものに

形成されていたことが分かります。

 

左半身の方が

支持力が強いので、

逃げる際にはおのずと

左の肢(あし)に頼ります。

 

すると、

左肢の踏み込みは深くなり、

当然、馬体は左へ回転します。

 

 

左脇腹が

縮まる傾向にあった理由として、

こんなことが考えられます。

 

馬に乗る際、

人間は馬の左側に立ちます。

 

乗り手は、左足に体重を乗せ、

右足を馬の向こう側に

よいしょっと持って行きます。

 

その為、乗った後に

意識的に体軸を正さない限り、

重心はどうしても

左に偏りがちになります。

 

怖がる子供の場合は

なおさら、

左の足に力が入りっぱなしに

なりやすいはずです。

 

こうして、左の背中には

人間の体重が

より強くかかって来ます。

 

それを、

左の前肢を踏ん張りながら

肩でグッと支え上げる…。

 

そんな風に頑張る内に、

ダンディの左脇腹は

縮まって行ったのかも知れません。

 

思っている以上に、

頑張って仕事をしている姿が

垣間見えてきます。

 

 

ところが、

こんな風にして

全身を調べて行った結果、

 

身体のバランスを乱している

根本的な原因は、

右肩関節にあることが

分かりました。

 

右肩関節には、

少しズレがあるようです。

 

 

あら~?(;・∀・)

 

問題の核心は腹腔にあると、

色んな要素が

言ってるんだけどなぁ。

しかも、右半身?

 

…推測は

間違っていたのでしょうか?

 

 

 

施術③ 原因のさらに奥へ ~身体構造の変化のプロセス

 

施術は、ここから

最も重要なプロセスに

入って行きます。

 

ダンディの身体に

何が生じていたのか。

それが、今回の問題と

どのように繋がっていたのか。

 

彼の身体自体が

その理由を解き明かしていく

プロセスです。

 

ここから先は、

ダンディの身体に

施術の進行を委ねます。

 

 

原因部分として特定した

右肩関節の、その前端にある

凹みに触れました。

ここは、上腕骨頭でもあります。

 

しばらくすると、

そのポイントから

一つの方角に向かって

流れが生じました。

 

この流れは、

肩関節に変調をおこしている

力の働きが、筋膜上に

地図の様な経路として

投影されるものです。

 

経路を辿ることで、

関節の変調の

さらに奥にある「理由」が

見えて来るはずです。

 

片手を

先ほどの凹みに置いたまま、

もう片方の手で

流れを追い掛けます。

 

右上腕骨頭前端から始まった流れは、

肩甲骨下部を横切って、

肩甲骨の後縁を辿るように

上へ向かいます。

 

辿り着いたのはキコウの

少し後方。

 

そこから今度は、

脊柱の稜線上を辿って

後方へ向かいます。

 

かなり早いペースで

移動して行きます。

 

どこまで行く気だろう?

 

腰仙関節まで一気に来ると、

ピタリと止まりました。

 

ダンディ―経路1

 

ここは、施術前に

腹腔の緊張がゆるんだ

ポイントです。

 

面白いことに、

施術前に身体に触れ

構造を調べている間に、

 

どうやら身体は自分で、

情報をある程度

整理して行くようなんです。

 

その為、こうして

最終的なプロセスに入った時には、

 

どこをどう変化させるか、

身体自身がすでにはっきりと

決めているようです。

 

施術前に触れた際に、

腰仙関節にもっと

アプローチして欲しい!と、

身体が思ったのかも知れませんねぇ。

 

 

腰仙関節で止まると、

体内で自発的な反応が

生じ始めました。

 

こうなった時には、

身体が「もういいよ」と言うまで、

変化が収束するのをひたすら

待つしかありません。

 

 

しばらくして、体幹部に

変化が現れ始めました。

 

右半身の

胸からお尻までの長さ(体長)が

縮まって行きます。

 

それと共に、体内の空間が

上へと広がって行く感触を

両手が感じ取ります。

 

腰仙関節の少し前の方で、

腰椎が上に上がって来ました。

腰のアウトラインが

変わって行きます。

 

「腰の辺りが、

上がって来た感じしますね。」

 

施術をじっと見守っていた

飼育員さんも、

変化の様子に気付いた様です。

 

…と言っても、形の変化は

普通にパッと見て分かる程、

大きなものではないんですよ!(;^ω^)

 

微妙な身体の形の変化に

気付いたと言うことは、

普段それだけ、

飼育員さん達が丁寧に

ポニー達を観察している証拠です。

 

実を言えば、10年もの間

ダンディにもジャックにも

問題が起きることなく

活動を続けているのは、

すごいことなんです。

 

それだけ彼女たちが

細やかに見守って来たからこそ

と言うことが、

観察眼の確かさからも感じられます。

 

 

 

やっと、移動再開。

背部の稜線をさらに後方へ辿り、

右の坐骨へ向かいます。

 

最初から触れていた

肩関節の前端と、

今辿り着いた坐骨とは、

胴体のちょうど端と端。

 

この2点の間で胴体全体が

一つの空間としてつながった…!

という感覚が生じました。

 

 

構造的には、もちろん

胴体は今までだって

一つに繋がっていました。

 

それが施術をしていると、

途中で流れが滞っていたり、

臓器のおさまりが悪くて

身体の中であっちこっち

向いている様な事があったりします。

 

人間の組織で例えるなら、

一つの会社組織なんだけど、

構成員たちはそれぞれ

バラバラの方向を見ていて

実はまとまっていない…。

みたいなことが、

身体の中でも起きているのですね。

 

そういった意味での「まとまり」を、

どうやらダンディの身体は

回復しようとしている様です。

 

 

2点間のちょうど真ん中の

腹部中央の奥で、

何か重たい感触があるのが

はっきりし始めました。

 

やがて、その重さは

徐々に抜けて行き、

腹腔内の空間が

軽さと明るさを回復した感覚が、

馬体に触れている手を通して

伝わって来ました。

 

 

坐骨を後にすると、

流れはさらに前へ向けて進み、

膝関節の前端まで来ると

再び止まりました。

 

膝関節の中で、

ググッと力が戻る気配が

生じます。

 

膝関節は、肘関節と

ほぼ同じ高さにあり、

肘関節と一緒になって

身体の重さを支えています。

 

膝の中で生じた変化は

体幹を持ち上げる力の

回復だったと思われ、

 

これに伴って、更に

腰のアウトラインは

上にあがりました。

 

腰仙関節のすぐ前方では

盛んに腹鳴がし始めたことから、

消化管も一緒に

変化をして行っているようです。

 

 

流れは更に前へ進むと、

右肩関節の後端へ

辿り着きました。

 

肩関節が

しっかりとし始めました。

 

膝関節とおなじように、

ここでも支持力の回復が

行われます。

 

「あぁ~、

しっかりして来ましたね。」

ふたたび、飼育員さんも

肩の変化に気付いてくれました。

 

 

いよいよ、旅も

終着点に近づいて行きます。

 

体幹をぐるりと

へめぐった流れは、

出発点の右肩関節前端へと

帰って来ました。

 

ダンディ―経路2

 

肩関節は、体幹から少し

離れた状態になっていたようです。

それが戻って行きます。

 

肩と体幹との

まとまりが回復してくると、

左の肩関節と呼応し合って

左右の肩関節の前端で

前※2を支え上げる様な変化が

生じ始めました。

 

※2 胸腔の前端で、
人間で言うところのデコルテの辺りを指します。)

 

胸の前側が

持ち上がった為でしょう、

首のアウトラインが

変わって来ました。

 

首の根元は少し下に沈み

凹んだ形になっていましたが、

 

それが持ち上がって、

首が扇形に見えるように

なって来たところで、

施術は終了になりました。

 

 

 

解題:身体の変化が意味するもの

 

ここで、少し

施術を総括してみたいと

思います。

 

身体の変化の仕方を見ると、

逆に、今まで

身体がどういう状態だったかが

見えて来ます。

 

ダンディの体幹部では、

その長さが縮まりながら

背中のラインが上へ持ち上がる、

という変化をしました。

 

ここから、

ダンディの背中は

本来よりも少し下に沈み、

 

その分、

体幹の筒型構造は

上から押されて

少しひしゃげたような状態に

なっていたと考えられます。

 

ダンディの身体が

起こしたかった変化は、

 

胸腹腔に空間的な広がりを

回復することと、

 

それに伴って

肩身の狭い思いを

していたであろう消化管に、

 

居心地の良さを

取り戻すこと、

だったのではないでしょうか。

 

施術中、

盛んにダンディのお腹が

鳴っていたのは、

 

自分が居るべき空間の

広さを取り戻した消化管が、

おもわず漏らした

安堵の声だったのではないか

と思います。

 

 

ちなみに、右肩と膝で

体幹を支える力が

弱まっていたことと、

 

右体側では

胸郭を上下に引き伸ばすように

力が働いていたのは、

 

もしかしたら

横転した際に

右半身を打ったため

だったのかも知れません。

 

 

 

むすび:ダンディに現れた変化

 

ここに、ダンディの

2枚の写真があります。

 

上は施術直前。

下は施術直後。

ダンディ 施術前-1

ダンディ 施術後ー1

 

姿勢が違うので、

形の変化などはちょっと

比べにくいところが

あるのですが、

 

首の形の違いは

分かりやすいと思います。

 

首と言うか、

タテガミですね。

 

施術前では、

タテガミのラインはわずかですが

下向きに弧を描いています。

施術後では、上に丸みを描く

扇形になっています。

 

お尻の形も

施術後ではきれいな丸で、

その分、尾の付け根も

高い位置にあるようです。

 

重心は、施術前では

肩関節の辺りにありますが、

施術後では身体の中央付近に

移っているように見えます。

 

 

何よりも注目すべきなのは、

毛並みです!(*’▽’)

 

特にブラシ掛けなどは

していないのですが、

 

施術後には毛並みに

空気が入ったように、

フワフワになっているのが

分かるでしょうか?

 

 

身体の内部空間が

広がりを取り戻して、

 

消化管などの臓器が

狭苦しい緊張から

解放されると、

 

体内の血流や

エネルギーの循環も

変化して、

身体の「元気」の

底上げが起きる。

 

毛根の細胞だって、

元気を取り戻しやすく

なるのだろうと思います。

 

それに、心も。

 

 

施術の翌日、

飼育員の平島さんから

ダンディの様子について

早速ご報告を頂きました。

 

『…昨夜から今日にかけて

ボロがツルンとしていて、

繊維質な感じのものは皆無でした。

それはもう見事なほど。

 

とても気分良さそうに穏やかで、

ジャックへの八つ当たりも

影を潜めていました。

 

もうひとつ、

餌の食べ方がゆっくりで

食べ終えて不足のない様子。

 

昨日までは、餌のかけらを探して

ずっと小屋のおが屑を

鼻先でいじっていたのが、

今日は片足を休めて

ゆっくり昼寝してました。』(メールより抜粋引用)

 

 

穏やかで、ゆったりとして、

現状に満足を感じられている。

 

毛並みがフワフワになったように、

ダンディの気持ちにも

新鮮な空気がいっぱい

吹き込んだのかも知れないなぁ。

 

きっと。

 

 

 

緊張の解放を妨げる、意識のはたらき 〜 11月から年末年始の営業予定

 

11月も2週目に入り、
2015年も残すところ1か月半ちょっと…。

 

ひゃお~、
一年が驚くほどあっという間に
過ぎて行きますね~!(;・∀・)

 

11月と、少し早めに12月の営業予定を
お知らせしようと思うのですが、
その前に。

 

先日クライアントさんとお話ししていて、

 

リラックスした、緊張がゆるんだ、と
なかなか感じられない人がいるのは何故か?
という話題になりました。

 

話しながら、
これはとても大切なテーマだと思ったので、
皆さんにもご紹介させて下さいね。

 

 

「ゆるんだ」と感じられないのは、なぜか?

 

施術後の、お茶の時間でのこと。
クライアントのYさんから、
こんな質問を頂きました。

 

「施術で緊張の抜けない方っているんですか?」

 

緊張が抜けるという言葉は、
広い意味では緊張が改善することを指します。

 

より厳密には、この表現の語感には、
「抜けた」と感じられるような
はっきりした体感があることが言い含められています。

 

その体感は、 クライアントさんが
ご自身の内的な世界で感じる主観的なものです。

 

つまり、彼女の質問を
詳しく言い換えると、

 

施術で身体が変化していても、
クライアントの主観的な体験として
リラックスしたと感じられない場合もあり得るか?
ということになります。

 

「緊張が抜けた、と言うか…。
そうですね、人によっては
『ゆるんだ』という感覚を感じない場合はあります。」

 

これには
施術者の力量も無関係ではありませんが(;^ω^)、
何よりもクライアントさんの意識の在り方が、
とても大きく影響します。

 

施術を受けに来る方の多くは、
痛みや緊張状態から解放されることを目的として
来院されます。

 

なので、施術に来るほとんど全ての方が、
リラックスしたい、ゆるみたいと言う意思を
まず間違いなく持っているはずです。

 

…のはずなのに、
クライアントさんのどんな意識によって、
「ゆるむ」「リラックスする」事を
体感しにくくなるのでしょうか?

 

 

「ゆるむ」感覚を拡大化する、脳の働き

 

ここからは、
私が経験的に理解していることを元に
ご説明してみたいと思います。

 

まず一つ目は、
「ゆるむ」という感覚を
すでに知っているかどうかが問題になります。

 

ゆるむ感覚を今までに味わったことがあれば、
わずかでも体内で緊張がゆるみ始めると、
意識がそれをすぐに「変化」として察知します。

 

「ゆるむ感覚」はまだ生じ始めたばかりでも、
そこに一たび意識が集中すると、
それは瞬く間に身体全体に伝わり、
全身が「リラックスしている」という実感を
得やすくなります。

 

例えば、足先が冷えている時に
冷たい足先に意識を向けてみたらどうでしょうか。
身体全体で、その冷えを感じる様になりませんか?

 

足が冷えるというのは
あまり嬉しくない例ですが、
ゆるむという体感に関しても
身体全体で感じるようになるのは同じです。

 

脳は、意識が捉えた対象を拡大化して、
全体へ伝播します。

 

捉えた対象が感覚的な情報だったなら、
それをより強く鮮明な感覚として
身体に実感させることを可能にします。

 

その為、反対に、
ゆるんだ〜!と感じた体験を
持っていない場合は、

 

脳の中で情報が繋がって
「なるほど~、この感覚がゆるむってことか!」と
実感を伴う理解が生じるまでに、
まず時間が必要となって来ます。

 

 

「緊張」を手放せない場合

 

二つ目は、意識のどこかで
緊張を手放したくない、
緊張を維持していないといけない、という
気持ちや考えがある場合です。

 

例えば、
失いたくない記憶や思い出などがあって、
今のままの自分でいなければ
それを守り続けられないと思っていたり、

 

(客観的な視野から見ると、
これは時間の止まった過去に半身を置いているので、
膠着し、緊張を抱えている状態です。)

 

担わなくてはならない役目があって、
緊張が途切れてしまったら
その役目を果たせなくなってしまう
と考えていたり。

 

これらは、いずれも自分では気づいておらず
無意識の中で、そのように
思い込んでいたりする場合もあります。

 

意識(無意識も含めて)が
緊張を残しておきたいと望んでいるなら、
身体が緩んでいくプロセスにも
なかば自動的に制限がかかります。

 

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緊張は、手放さなくてはいけないか?

 

こんな風なお話をしたところ、
質問をしてくれたYさんは、

 

自分は緊張を解いてはいけない、
緊張を解いてしまったら
自分がどうなるか分からないと思っている、
と話してくれました。

 

Yさんはとても責任感が強く、
誠実に役目を務められる方です。
ですが、小さい頃から
身体は強い方ではありませんでした。

 

その為、もしかすると、
無理は承知でも自分を多少追い込まないと、
頑張り続けることが出来ないのではないかと
感じている部分があるのかも知れません。

 

 

緊張を保持しようとするのが、
悪い訳ではありません。

 

また、
リラックスが上手な人が優れていて、
リラックスできない人は
劣っている訳でもありません。

 

これは、それぞれの人の中で
展開されて行く変化のプロセスが、
たまたま今の時点で
どんな現れ方をしているかということであって、

 

他者と比べて
優劣をつける様な性質のものではありません。

 

 

仕事や、日々の生活の中で、 どうしても
緊張を持続させていないといけない場面は
沢山あると思います。

 

そうした背景を無視して
無理にリラックスしろと言われるのでは、
リラックスすること自体が
重荷になってしまいます。

 

今は緊張が必要だと感じるのであれば、
それを手放す必要はないと思うのです。

 

ですが、自分は今は緊張を必要としているんだな、
という自覚を持てているかどうかは重要です。

 

この自覚が、
自分が本来のペースよりも少し無理をしている事や、
思っている以上に頑張っている事に気付かせてくれます。

 

自分は緊張を手放したくないんだな、
ということが自覚できたなら、
今度はその理由について自分に問いかけてみてください。

 

理由を認識することは、
自分が緊張から解放されるのを
いずれ、手助けしてくれるはずです。

 

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身体の変化は、意識の変化と同期して生じる。

 

ゆるむ事を知っている人や、
自分は変化しても良いのだと、
自分が変わる事を全面的に許容できている人は、

 

緊張が解けた感覚を感じるのが上手く、
変化も早い傾向があります。

 

今はまだすぐに手放せない
という緊張を持っている人は、
身体もそれに準じた、慎重な反応を示します。

 

緊張は、身体の歪んだバランスを支える
添え木のような役割を担っています。
(誰にでも、少なからず歪みはあります。)

 

大事な役割を持っている添え木なのですが、
まずこれが外れなければ、
身体の歪みはいつまで経っても
解消する事が出来ません。

 

緊張を手放すことは、
歪みを抱えた身体にとっては
支えを失う怖さを伴います。

 

そのため、身体は
現状のバランスに大きな変更が加わらないよう、
手放しても不安を感じずに済む程度の緊張を
身体自身が慎重に選び、

 

それを施術者が見つけられる様に
表に現します。

 

こうして、変化は身体のペースで
少しずつ段階を追って生じるため、
長いスパンでの取り組みを必要とする傾向になります。

 

ゆっくりしたそのプロセスは、
こんな風に進みます。

 

身体が変化すると、それと共に、
気持ちや意識の混乱や、それにこだわりも、
少しずつ解けて行ったりします。

 

意識が整理されると、
手放せる緊張の範囲が広がります。

 

その分少し、
身体の方の変化も加速したり
大きな範囲になったりします。
それがまた次の変化への準備になって…。

 

そんな風に、少しずつ、
でも着実に前進して行きます。

 

 

人によって必要となる変化の速度や、
変化の仕方は異なります。

 

くどいようですが、
変化が早く大きいから優れていて、
ゆっくりのんびりしているのは劣っている、
と言うようなことはありません。

 

その人にとって必要な経験が得られる様に、
私たちは、一人一人が
自分に合ったペースで歩んでいます。

 

私たちが自分の視点を
変えて見ることが出来れば、

 

大きくゆるむ体感をする人は、
もしかしたらその感覚自体が、
その人の感受性や創造性を育む上で
大切な要素を与えてくれているかも知れませんし、

 

また、ゆっくりゆっくり
一歩一歩変化を重ねて行く人は、
少しずつ変わって行く過程そのものが、
何かを乗り越えて行く力を蓄える
貴重な訓練となっていたりするのかも知れません。

 

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11月~年末年始までの営業予定

 

大変お待たせしました~!
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11月はもう半分近くまで来ちゃいましたが、
遅ればせながら営業予定をお知らせ致します~(;^ω^)

 

11月・12月

 

営業時間 : 11時~20時(施術の最終受付は17:30)

定休日 : 毎週水・日

臨時のお休み:11月23日(月・祝)、12月19日(土)

→どちらの日に関しましても、
ご希望がありましたら、
代替日として水・日での施術をお受け致します。
遠慮なくご相談ください(^^♪

 

年末年始

 

年末:29日(火)まで営業致します
年始:5日(火)より営業開始致します

通常は水・日が定休日ですが、
年始は5日(火)、6日(水)が営業日
7日(木)をお休みとさせて頂きます。
1月8日(金)以降は、通常通りとなります。

 

 

症状には、隠された繋がりがある。〜喉頭と心臓の症例から

 

 

身体に現れる症状は、恐らくは全て、
お互いにつながりを持っています。

 

身体は、重要な問題を奥へ奥へと
隠す傾向があります。

 

これは、私たちの活動を支える為に
身体が均衡と秩序を維持しようとする、
涙ぐましい努力であり、工夫です。

 

ですが、その工夫によって、
症状同士のつながりは複雑化し、
関係性が見えにくくなります。これは時に、
症状の治癒を難しくさせるものにもなります。

 

今回は症例を紐解きながら、
施術を通して身体の情報を整理する事で、
症状のつながりも整理されていく様子を
お話してみたいと思います。

 

 

死の危険を持つノドの痛み

 

先日、Mさんが
4か月ぶりに施術にいらっしゃいました。

 

この夏はただでさえ酷い暑さで大変でしたが、
その真っ只中の8月に
家のリフォームをしていたそうです。
まぁ~…とにもかくにも大変だったようです。

 

9月に入ってまもなく、
Mさんは食事中に、
急な喉の痛みを感じました。
ものを飲み込むと痛みが起き、
おさまる様子はありません。

 

医者に行くと風邪と言われましたが、
出された薬では
痛みは治まりませんでした。

 

翌日は違う病院に行くと、
今度は「喉頭浮腫」と診断されたそうです。

 

喉頭浮腫では、
のどぼとけの辺りで粘膜が腫れます。
その為、ひどい場合には
窒息することもあるそうです。

Gray954-気管 

Gray954-気管(Public Domain)

 

気道を塞いでしまう程の大きさになる前に
早い段階で腫れを見つけて
処置出来る事がとても重要なんですね。

 

Mさんは自分で「おかしい」と気づいて、
すぐに診察を受けるという行動に移したことで
大事に至らずに済みました。

 

それでも、医者の診断が下るとすぐに、
1週間ほど入院することになったのだそうです。

 

 

どんな症状でも、全身を整える。

 

neMu no ki に来院された時には、
喉頭浮腫についてはすでに治まっていました。

 

退院してから1か月ほど経過していましたが、
この間に、実に様々な形で体調が崩れたそうです。
左の臀部には、治りかけの帯状疱疹もありました。

 

 

身体は、複雑な状況にありそうです。
ですがどんな症状が出ていたとしても、
施術では全身のバランスを整えて行きます。

 

バランスを整える事は、ある意味
身体に蓄積されて複雑化してしまった情報を
整理することでもあります。

 

施術は便宜的に、
背面の下半身から始めて行きます。

 

まず、骨格や筋肉の状態を細かく調べ、
構造の安定性を乱すポイントを特定して行きます。

 

背面の下半身では、
ポイントは左臀部の上の方にありました。
ここは、治りかけの帯状疱疹の場所とほぼ同じです。

 

帯状疱疹のところから出発して、
アプローチ箇所は徐々に移動して行きます。

 

移動しながら、
左坐骨と尾骨の隙間に生じていた緊張や、
仙骨稜の奥の方にある
塊のような感触のものを解いて行きます。

 

腰椎3番と尾骨へアプローチした時には、
この2点間の奥の方で、上下に伸びる感触が生じました。
伸びたのは、腰椎から仙骨の内側面に張っている
筋肉を包む膜だっただろうと思います。

 

これに伴って、
後方に張り出していた仙骨が少し平らになり、
仙骨に反比例して強く反っていた腰椎もまた
少し平らになりました。

 

つまり、強い曲線を描いていた
腰~仙骨・尾骨にかけてのアウトラインが
なだらかになったわけです。

 

これは、脊椎に常時かかっていた物理的な負荷が
軽減したことを示します。
その証拠に、強く丸みを帯びていた背部も、
力が抜けて楽になったように見えました。

 

この様な具合に、
背面の下半身の他に

 

背面上半身と頭部、
前面の頭部と頚部、
前面の体幹と上下肢

 

という3つのパートについても
それぞれ丁寧に調べて、施術して行きます。

 

でもデスネ~…(;・∀・)
施術の全てを詳細に書いていると
えらく長い文章になるので
(書いている私も辛い~( ;∀;))
中間部分については手短かにしますね!

 

背面の上半身では、
後頚部~両肩にかけての領域が
アプローチの中心でした。

 

結論だけを言うと、
左側頚部を上下に引き伸ばすような変化が生じて
頚~肩にあった左右差が軽減しました。

 

前面での頭部・ノドの領域では、
主に左右の眉と、
右目頭、左瞳孔へのアプローチでした。

 

右眉根に形成されていたしこりを解き、
微妙に右に寄っていた鼻根が
中央に戻る変化が生じました。

 

 

身体に蓄積した、要らない情報の整理

 

一度の施術で直接アプローチするのは、
最大で4か所です。

 

全身をみる際の効率的な理由から、
身体を4つの領域に分け、それぞれの中で
構造の調和を崩す力を生み出している所へと
アプローチする為です。

 

1回の施術の中でアプローチする部位は、
互いに関連し合っています。

 

身体が今手放したいと望んでいる
歪みや緊張を実際に開放するためには、
段階を追って身体の側の準備を
進めていく必要があったりします。

 

4か所へアプローチして行く間に、
身体の中では蓄積していた緊張が解けて行きます。

 

緊張とは、いわば
「力の網」の様になものです。

 

日常生活の中で出来た緊張や
捻挫でケガした時の緊張や…。
様々なものが網の目で結びつき、
複雑に入り組み合って行きます。

 

施術は、そうして複雑に絡まりながら
知らぬ間に身体に蓄積した情報を
整理して行くものです。

 

解放されていく緊張は、
かつては必要だったけれど、
今のその身体にとっては不要な情報と言えます。

 

不要な情報が整理されると、
その奥からは本当に改善すべき事柄が見えてきます。
症状の奥にあったものは本当は何だったのか、
それが見え易くなります。

 

 

目に見える現象から、原因を読み解く。

 

Mさんの施術で最後にアプローチしたのは、
心臓でした。

 

アプローチを開始した地点は左肺の先端近く、
東洋医学の概念を借りるなら
経穴で言う中府の辺りです。

 

 

十四経発揮図譜~肺経-4

 

Mさんはかなり厚みのある胸郭をしています。
胸郭と言う容れ物だけが
膨らんでしまっている印象を受けます。

 

また、胸郭の下縁にあたる肋骨弓も、
とても高い位置にあります。

 

つまり、横隔膜が常に上の位置にあり、
肺もまた呼気の時のように
常に収縮した状態にあることが想像できます。

 

胸郭内の圧力の高さが、
胸郭という容れ物全体を内側から強く押し、
前後に膨らませているのでしょう。

 

こんな風に予測を立ててみましたが、
本当は違うかも知れません。

 

実際はどうなのでしょう?
今現在の呼吸の様子を
丁寧に観察します。

 

鼻での呼吸のタイミングと、
横隔膜、右肺の動きは合っています。

 

左肺はと言うと、
タイミングが遅れています。

 

息を吸うと、
横隔膜の方から肺の上の方へ
波のような動きが生じます。

 

波が左肺の中央付近に来ると、
少しもたつくように見えます。
息を吐き出す時も、同じように遅れます。

 

中府から始まったアプローチは、
左の縦隔(肺の内縁)を辿り、
左の横隔膜へ向かいました。
横隔膜に沿うようにアプローチが続きます。

 

横隔膜が弛んで来たのでしょう、
タイミングの遅かった左肺の動きが、
右肺と揃い始めました。

 

今度は、胸骨の下部にアプローチが集中し始めました。
横隔膜の中央部と胃に当たる部位で、
経穴では中庭、鳩尾(みぞおち)です。

 

十四経発揮図譜~任脈-3

 

Mさんの呼吸は深くなり、吸気の際に
胃の辺りも膨らむようになりました。
横隔膜がしっかり下まで
下がる様になった証拠です。

 

Mさんの呼吸に合わせて、
胸郭全体が同期するように
大きく動き始めました。

 

 

重要な問題は、奥に隠されている。

 

施術のアプローチは、
胃の方から心臓の上の方へと
移動します。
経穴で言うと、玉堂。

 

ぐっすり眠っているMさんの呼吸を
更に見守りながらいると、
おかしな現象が起き始めました。

 

呼吸の途中で一旦胸郭の動きが止まり、
それに伴っていびきの様な音が
一回だけ起きます。

 

よくよく観察してみると、
4~5回ほど呼吸を行う内に
心臓を起点にして肺の動きが止まります。

 

心臓が肺の動きについていけなくなる様で、
途中でリズムが逆になるような印象です。

 

それに伴って肺の動きが乱れ出し、
ついには胸郭全体の動きが
ピタッと止まりました。

 

止まったのは一瞬のことでした。
呼吸が止まった苦しさからでしょう、
すぐに大きないびきの様な音と共に
ごおっと空気が一気に吸い込まれ、
再び正常なリズムで呼吸が始まりました。

 

4~5回の呼吸を経ると、
やはり同じように停止→いびきとなります。
規則的なサイクルを持って
生じている現象だということが分かりました。

 

アプローチは
玉堂から鳩尾(みぞおち)へ向かいます。
心臓の表面を伸ばして行くような動きです。
そこから左中府(肺の先端)へ。
これは、心臓を左上の方へ引き上げるような動き。

 

再び玉堂へ戻り、しばらく待っていると、
その奥の方で
心臓の緊張がフッと抜ける感触が生じました。

 

呼吸を観察すると、
心臓が途中でぎゅっとなって
呼吸が止まる現象がおさまった様でした。

 

玉堂の位置からして、
緊張が生じていたのはもしかしたら
心臓の弁だったのかも知れません。

 

吸気の際には、
胸郭の陰圧が増します。
この時、肺に流入する空気量が
増えるのはもちろんですが、
心臓内に流入する血流量も増えるそうなんですね。

 

つまり、吸気の時には
心拍数も少し上がることになります。

 

リズムの変動について行くには、
器官の機能の柔軟性が必要です。

 

心臓の弁とは限らずとも、
心臓のどこかに緊張があると、
そうした柔軟な変化に対応するのは
難しいだろうな…と
想像がつきませんか?

 

 

施術で生じた変化によって、すぐに、
Mさんの心臓の状態が
日常においても安定的になる訳では
ないかも知れません。

 

ですが、Mさんの身体の中で
何かが良い方向に動き始めたのは、
確かだろうと思います。

 

 

気遣いが裏目に…Mさんの意外な事情

 

私の感覚では、 今回
施術でアプローチしたのは心臓だと感じました。
ですがこれまで、Mさんから
心臓に対する不安を聞いたことはありませんでした。

 

本当に心臓だったのでしょうか?
Mさんに施術の詳細を説明する前に、
尋ねてみました。

 

「心臓は、普段
何か気になる様な事はありますか?」

 

Mさんは、
こんな風に話してくれました。

 

以前から、寝ている時に
心臓がぎゅ~っとなって、
苦しくて目が覚める事がありました。

 

病院で調べても、検査では
それらしいものは何も出なかったので、
特に治療などはしませんでした。

 

心電図には、一定の間隔で
ちょっと不整脈があったみたいなんですけど、
規則的だから問題ないですよと言われました。

 

医師からは、
痛みがひどい時には飲むようにと
念の為にニトロを渡されました。

 

実際に痛みが生じた時に飲んだんですけど、
全く効かなかったんです。
氷水をきゅ~っと飲むと、治まるんですよね。

 

 

…おそらくは、心臓の抱えていた緊張の影響で、
寝ている間に呼吸が乱れる傾向があった事を説明すると、

 

規則的な不整脈は、
このせいだったんですねぇ~。

 

今は、そう言えばいつもこの辺り
(心臓の左側を押さえて)にあった
違和感が消えて、
すっきりした感じがします。

 

そう言えば…。
8月のすごく暑い時に、
リフォームで家に作業の人が来てたんです。

 

外で作業してる人がいるのに
自分がクーラーに当たっているのは
申し訳ないって思って、
私も暑い中にいたんですよ。

 

今思うと、何も気にする必要なかったのに。
おかしいですよね~。

 

 

どうやら、アプローチしていたのは
心臓で間違いなさそうでした。

 

Mさんが喉頭浮腫で入院したのは、
9月に入ってまもなくです。

 

8月の中旬頃は、猛暑のピーク。
それからすぐの8月の末には、
急な冷え込みを体験しました。

 

クーラーをつけずに
猛暑の中にほぼ1週間、そこですでに
元々緊張を抱えていたMさんの心臓には、
強いストレスが掛かっていたことでしょう。

 

Mさんは、
自分でそれが気遣いだとも思わずに
普段から細やかな気遣いをされる方です。

 

ですが今回に限っては、それが裏目に出たと
言えるかも知れません。

 

猛暑から一転、気温の急激な低下が起きた事で、
心臓の疲労は更に強くなったことでしょう。
身体の循環機能が下がれば、抵抗力も落ちます。

 

 

喉頭浮腫と心臓の関係性(試論)

 

施術の流れをもう一度見てみると、
右肺や横隔膜から動きの遅れていた左肺が
そのリズムの調和を取り戻した後で、
心臓のリズムが狂う現象が表面化しています。

 

裏を返せば、それまでは
左肺の変調した動きによって、
心臓が持っていた緊張状態が
隠されていたと言う事です。

 

もう少し突っ込んで言えば、
左肺はもしかすると、

 

緊張を抱えた心臓の負担を軽くする為に、
心臓の許容範囲に合わせて、
ゆっくりした動きあるいは小さな動きを
していたのかも知れません。

 

喉は、囲心腔という空間で
心臓と同居しています。

 

また、脈管のつながりも
非常に近接しています。

 

Mさんの喉頭浮腫の症状は最初、
食べ物を呑み込むと
甲状軟骨の左奥の辺りに痛みが生じる
という状態から始まっています。

 

ここからは、あくまで
私の推察ではありますが。

 

心臓を(たぶん)庇って
ゆっくりになっていた左肺と、
免疫力低下で
腫れあがってしまった喉頭の左側と。

 

いずれも左側です。
何らかの相関関係があるだろうと
想像が働きます。

 

心臓に緊張があったなら、
おそらくはノドの血管にも
緊張は伝わっていたはずです。

 

緊張下の組織は、
炎症を起こしやすい状態でもあります。

 

Mさんの心臓には以前から変調があり、
それは左肺の動きを遅くさせることで
何とか弱さをカバーできていたけれど、

 

夏場の無理によって、その影響は
同じ空間を共有するノドの方へ広がり、
炎症性の腫れものとして姿を現した。

 

ノドの症状は唐突に現れたように見えますが、
おそらくは、長い時間の経過と
その間に身体に蓄積された緊張によって、
奥深くで 徐々に
その形が作られていったのではないでしょうか。

 

 

臓器の状態は、どのように体表に現れるか。

 

おそらく私達が予想している以上に、

身体の表面には

体内の状況がつぶさに映し出されている様です。

 

今回は、

内臓の状態は体表にどのように表されるのか、

それを分かりやすく示してくれた症例を元にして

記述してみたいと思います。

 

 

 

今までにも何度も説明しているので

耳タコの方もいらっしゃるかも知れませんが^^;

はじめに、neMu no ki で行う施術について概説しますね。

 

施術では、

まず筋肉・骨格の状態をつぶさに調べ、その時の身体の中で

もっともバランスを崩す原因になっている箇所を選定します。

 

特定された原因部は、奥に筋膜の変性を抱えています。

施術の最終目的は、この原因部の変性を解消する事です。

 

 

 

原因部の筋膜の変性については、

少し詳しい説明が必要だろうと思います。

 

たとえば、

足首の捻挫をした場合を例に取ると、

私たちの身体は受傷の瞬間に強い衝撃を経験します。

 

その衝撃は、物理的な力の波として

捻った足首から隣接する部位へ伝わって行きます。

 

 

 

筋膜上には、

こうして伝播して行った衝撃=力の痕跡が刻まれる様です。

(これは、筋膜が衝撃によって加わった力を分散する役割を担っている為に、

その分散の結果生じるのではないかと思われます。)

 

力の痕跡を現実的な現象として考えるなら、

それは組織という微小なレベルに生じる緊張、あるいは膠着に置き換えられます。

こうした痕跡は他の部位と異なる感触を持つため、

体表から実際に確認する事が可能です。

 

力の痕跡は、

時には大小・形も様々なしこりを形成したり、

あるいは足首のまわりをぐるぐる周回するように残存したりします。

 

面白い事に、

足首のまわりを周回する痕跡を解除して行くと、

その足の捻挫癖が改善したりします。

 

つまり、

捻挫をした際に捻って外側に倒れた足首の形が、

その時に筋膜上に刻まれた力の痕跡と共に

身体の癖として保存されていたことになります。

 

 

 

施術者や、身体に深く興味を持っている方も

読んでくださっているかも知れないので、

より具体的に説明してみます。

 

足首をひねると、

距骨や踵骨と言った足関節や踵を形成している骨が

外側にズレたり、外側に倒れたりします。

 

これらの骨の変位がある程度の所で止まるのは、

筋膜が衝撃の瞬間に緊張や膠着を起こし、

骨の位置を固定するためです。

 

捻挫が治ったはずなのに古傷として痛みが再発するのは、

こうした骨の変位が温存されている為です。

筋膜の痕跡を解くと、骨の位置は元に戻ります。

 

 

 

では、話を元に戻します。

 

場合によっては、足首を周回した痕跡は、

親指へ繋がって行ったりします。

これは、足を捻った際に足首を少しでも庇おうとして

その瞬間に無意識的に親指を踏んばったことを物語っていたりします。

 

(※施術者に向けて…

こうした症例の場合には、足首への施術だけでは捻挫癖はなかなか改善しない様です。
母趾の緊張があることで、足首の緊張も解け切ることが出来ない為です。
また捻った瞬間に距舟関節に圧縮が加わっている場合には、
そちらへのアプローチも合わせて行う事が必要の様です。)

 

力の痕跡を解除して行くと、筋膜の変性は解消されます。

それに伴って

そこに封じ込められていた身体の癖も同時に変化する為、

身体の構造的なバランスが整っていく、という寸法です。

 

 

 

Aさんは、neMu no ki が開院した頃から

いらして下さっているクライアントさんです。

 

ここ1~2年は、頭を酷使しながらPCに向き合う時間が長くなり、

思考や気持ちを切り替えたい時に施術を受けにいらっしゃいます。

 

この日は大きな仕事を終える直前で、

極限まで自分を追い込んだ後の様でした。

 

自分ではどこが悪いかも分からない、

人間じゃないみたいな感じがする、との言葉から、

人間らしい感覚がなくなる程、一生懸命だったことが感じられます。

 

 

施術は、

まず身体を4つのパートに区切って、

それぞれのパートで一番バランスを崩す原因になっている箇所を選定します。

その4つの原因部の中で一番影響力の強い箇所を

全身のバランスに最も影響を与えている原因部として、

一番深くまでアプローチして行きます。

 

 

Aさんのこの日の最大の原因部は、

剣状突起でした。

 

胸骨の下端に位置する剣状突起から、

筋膜上に記された痕跡を追いかけて行きます。

 

剣状突起から、隣接する右肋軟骨へ。

第6肋軟骨の内縁にアプローチしていると、

胸腔で変化が生じて行きます。

 

Sternum_location…Human skeleton front arrows no labels.svg(Public Domain)-2

 

手の感触を介して、

反応の起きている箇所の深さや構造を感じとります。

 

この辺りにある臓器と言えば、

横隔膜、肺、縦隔、心臓です。

 

― 横隔膜じゃないな、肺も違う。

 

 

胸骨や肋軟骨の奥には、胸部の空間を3つに区切る縦隔があります。

その縦隔と、左右の縦隔ではさまれた心臓の辺りで

広範囲に反応が起きている様です。

 

心臓が少し前に出て来た感じがあり、

それに伴って胸郭が内側から押し広げられたのでしょうか、

Aさんの胸が広がった感じがします。

 

体表で触れているのは、

右第5~6肋軟骨から胸肋関節の辺りです。

その周辺を細かく細かく移動して、

ポイントがわずかづつ変わって行きます。

 

心臓を中心として

広範囲で生じている様に感じていた反応は、

次第に的を絞って行く様に変化して行きます。

手の感触の中に現れたのは、心臓の右壁の様でした。

 

実際に触れている第5~6胸肋関節の付近には、

ちょうど指先と同じくらいの面積のわずかな凹みがありました。

この凹みへのアプローチは、

反応が起きていると分かる様になるまで

長い沈黙の時間がありました。

 

今まで心臓は

通常よりも少し強く右側に傾斜していたのでしょうか、

沈黙の末に、心臓の右壁の上部が左へ動きました。

 

壁が動いたのに伴って、

心臓全体の輪郭を感じ取りやすくなりました。

心臓が立ち上がり、先ほどよりも安定したために、

その存在を感じ取りやすくなったのかも知れません。

 

心臓が右に傾く、と言うほどではないかも知れませんが、

今までは少し

右にもたれている様な感じだったのかも知れません。

 

大きな反応が生じたのをきっかけに、

接触ポイントも移動しました。

右第5~6肋軟骨から胸骨を横切り、

左の第4胸肋関節の少し内側へ。

 

左の第4胸肋関節も、微かな凹みのようになっています。

 

 

― 先ほどの凹みと言い、

凹みそのものに集中してアプローチしている所からすると、

心臓の弁かも知れない。

 

 

凹みが次第に平らになると共に、

心臓の表面が一つに繋がったような感じを受け取り、

施術が終了となりました。

 

 

 

終了後、Aさんに

心臓は何か心当たりはありますか?

とお聞きしました。

 

開院当初から来て頂いているので、

もう5年以上のお付き合いになります。

今まで、Aさんが心臓について不調を抱えている話は

聞いたことがありませんでした。

 

「心臓は、不整脈があるんです。

15~6年前くらいかな、普通よりも心臓が小さいとも言われました。」

 

― そうでしたか。

今日の施術は、どうも

心臓の弁の辺りへのアプローチなのかな、

という感じだったので。

 

 

「あ!正しく!

僧帽弁のせいで不整脈が出るって言われました。

 

弁の中で中に引き込まれるようになる部分があるらしくて。

そのせいで、不整脈もヒクっと(息をヒッと呑み込んで、感覚を実演しながら)

なるような感じで起きるんです。

 

最近は起きてなかったんですけど、

今日は施術の間に一度ヒクっとなったので、

何だろう?って思ったんです。」

 

 

最後にアプローチした左第4胸肋関節は、

Aさんの言葉と符合するように、

通常ならばちょうど僧帽弁が位置する所です。

 

心臓弁

 

このポイントへのアプローチは

右第5~6肋軟骨から胸骨を横切って行われましたが、

それは心臓が右に傾いていた事を示していたのか…。どうでしょうか?

 

これはあくまで個人的な思考遊びと思って頂ければ幸いですが、

 

もし心臓の上部が通常よりも右傾していたとして、

その心臓のズレによる歪力が

どこに一番大きく負荷されるかと言うと、

 

構造的に最も弱い弁の部分ではないのか。

それが僧帽弁の一部が引きつれる様な現象を

引き起こしたのかも知れないなぁ、なんていう

思い付きも浮かびました。

 

 

 

Aさんの言葉を聞いて、

他にも合点が行った事がありました。

 

Aさんの胸骨下部から左肋骨の下部の一帯には、

初めて施術を行った当初から

妙に平らで静かで、どちらかと言うと

覇気が足りない感じありました。

ここは、心臓の表面に当たります。

 

いつ変化するかな?何が原因になっているのかな?

と思って見守っていたのですが、

 

奥に納まっている心臓が小さいのであれば

表面の骨格としては中の充実感が足りない訳です。

当然、起こり得る変調だったことが分かります。

 

心臓が大きさを取り戻したかは分かりませんが、

施術後に確認した際には

心臓表面一帯の骨格の平板さは軽減し、

外からの力に対する抵抗力と強さを

取り戻した様に感じられました。

 

 

 

この症例は、

医師から言われてから相当な年月が経過しており、

またその間に、問題となるような

大きな症状の無かった臓器の変調です。

いわば、未病の状態と言えるかも知れません。

 

実際にはそうしたものも、

症状が無いからと言って治癒しているわけではなく、

構造的な変調として体内に温存されている事が分かります。

そして、身体はそれを把握しています。

 

重大ではないけれど、小さな症状をサインとして出したり、

あるいは体表にごく小さな形の変化として現すことで、

 

そこに意識を向けてもらう必要がある事を、

身体は私たちに懸命に

伝えようとしてくれているのだろうと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

脊柱の彎曲は、元に戻る。~脊柱管狭窄症の事例から

「骨の変形」と

 

 

社会に出て2年目にあたる20歳の頃、

Mさんは頚椎症と診断を受けました。

首と背中に、その後長い間、痛みを抱えることになりました。

 

 

「仕事でストレスを抱えていたから。

 

仕事も好きじゃなかったんだけど、だからと言って

そこを辞めて自分に合った他のものを探すっていう、

身軽さもなかったのね。

 

長女だったしね。」

 

 

酷い時には、首の痛みが吐き気になることもありました。

初めて病院に診察に行った時には、治療は背中への注射でした。

すごく痛かったけれど、おかげで首の方は嘘のようにケロリと治まりました。

 

 

しばらくして、痛みが再発しました。

再発するたびに注射による治療を受けましたが、

最初の時のような効果が出る事はそれ以降ありませんでした。

 

Mさんは現在50代。長い時を経る内に、

あれほど苦しんだ首の痛みは

自然と治まってしまったようでした。

 

 

ところが、

今から6年ほど前に旅行中に滑って転倒、

その際に坐骨を打ったのをきっかけにして

今度は坐骨神経痛が出るようになりました。

 

 

レントゲンでは、

異常は何も見つかりませんでしたが、

痛みそのものは2年ほど続きました。

2年と書くと短く感じますが、痛みを伴っての辛く長い期間です。

 

今までの病院では進展がないと感じたので、

病院を変える決意をしました。

転院先ではMRI検査が行われ、

その結果、腰椎4番、5番に脊柱管狭窄があることが分かりました。

 

 

治療は、穿刺する箇所をその都度変えながらの

神経ブロック注射でした。

注射の痛みを我慢しながら、それでも腰が良くなるのであれば、

と10回以上試しました。

 

しかし、一向に効く気配はありませんでした。

望みをつなげようと、整体や鍼、ストレッチなど、

効く可能性のありそうな治療法や施術法を自分で調べながら

あちこち回りました。

 

 

「筋膜」という言葉が気になって、

neMu no ki にやって来たのは今年の夏の事でした。

それから2週間に1回ほどのペースで、施術を受けるようになりました。

 

受け始めてから5回目の施術で、

脊柱管狭窄症と診断された個所に

構造的な変化が起きました。

 

4回目までの施術は、

中背~腰部、右腕、後頭下縁、心臓の裏側など、

腰部の狭窄症とは直接関係のなさそうな個所への施術でした。

 

それでも、少しずつ

身体が楽になっている感覚がありました。

 

 

 

Mさんは歩くのが大好きです。

大好きだけど、歩くと

坐骨神経に沿うように太腿の裏側に痛みが出てきます。

だから今までは、休み休みでした。

 

この間は、隣町まで1時間かけて歩いて行き、

目的だったお店の中をウロウロしながら買い物をして、

そこからまた1時間かけて歩いて帰って来ました。

休みながらの必要はありませんでした。

 

歩いている時に、痛みはまだ出ます。

でも、前みたいな辛さではありません。

 

欠かさずにお稽古に行っている太極拳でも、

腰を左右にひねりながら、デンデン太鼓の様に手を振る

「スワイショウ」という動きを

最近試し始めました。

 

今までは、腰をひねる動きなんて言うと

グキッと行きそうで怖くて、試す事もしませんでした。

 

今だって、まだほんの恐る恐る、コワゴワと。

でも、試そうという気持ちになりました。

 

 

身体は正直です。

本当に大丈夫、という所まで癒えていない時には、

どこかで不安を覚えます。

身体が安定したバランスにいるか、あるいはそうなりつつある時、

大丈夫、試してみよう!というポジティブな気持ちを、身体が伝えてきます。

 

 

 

さて、5回目の施術です。

施術の中心になったのは、腰仙関節から腰椎5,4,3番。

MRI検査で、脊柱管の狭窄があると診断された辺りでした。

 

 

この時に、大きく後ろに飛び出て固まっていた腰椎が、

完全ではないにしても 、手で触って平らになったと感じられる程度にまで変化しました。

 

 

身体にどのような変化が生じたのか、

それを順を追って詳述して行こうと思います。

それに先立って、まずMさんの身体の特徴を説明します。

 

 

Mさんの腰椎下部(L3~5)では、

椎骨が後ろ(背中側)に飛び出ていました。

 

 

特にL3が最も後ろに飛び出ており、

L5は中心から右にずれています。

 

 

L3は本来、腰椎のカーブの頂点にある骨です。

つまり、腰椎の中で一番お腹側にいるはずです。

そこが、逆に一番背中側に飛び出ている訳ですから、

腰に何か不自然で無理な状況が生じていることが分かります。

 

 

骨盤はと言うと、

右側では腸骨の上縁が背中の中へ潜っていて(前方への変位)、

腸骨の輪郭を確かめることが出来ません。

そして、その腸骨と仙骨が接合する仙腸関節を観察すると、

右腸骨が左腸骨に比べて下に下がっているのが分かります。

 

 

右腸骨には、下方への位置のずれ(変位)と前傾という

二つの癖が重複して生じています。

 

 

骨盤全体のバランスからすると、

仙骨そのものも位置が下に下がっている様です。

 

 

他者の体型を日々つぶさに見ていると、

その人の本来あるべき理想的なプロポーションが直感的に分かる様になります。

その直感を持って観ると、腹部が長くなっちゃってるなぁとか、

腰部の長さが短縮しているなぁとか、

本来の姿とはズレている箇所に自ずと違和感を感じ様になります。

 

 

 

仙骨の下にある尾骨は、中の方へ入りこんでしまっています。

これはちょうど、犬が尻尾を足の間に挟んでいる時の

尻尾の付け根の様子と似ています。

 

 

下背部(第7~9肋骨を中心とした両背部)は固く盛り上がっています。

この固い隆起部分は、

腰椎の後湾によって脊柱の柔軟性が低下したために

背部に負担がかかって生じていると感じ取れました。

 

 

こうした形状の変化を観察すると、

腰と背中に何が生じ、それがどんな症状に結びついているのかを教えてくれます。

 

 

この時に施術の中心となったのは、

尾骨の先端でした。

 

 

施術でアプローチすべき箇所は、身体自身が決めます。

施術者は身体の意図を汲み取って、身体が変化したい方向に後押しするだけです。

 

 

尾骨の先端から筋膜へのアプローチを開始すると、

それはまるで雪の中の足跡が一本の道になって見えるように、

移動する施術ポイントがラインを形成して行きます。

このラインは、それぞれの部位が力学的にどの様に結びついていたかを示しています。

 

 

尾骨の先端から始まったラインは、

仙骨の右際に沿って移動して行き、右後上腸骨棘へ到着しました。

 

 

この間に、仙尾骨の内側面(内臓と隣り合う面)で反応が起き始めました。

組織が弛んでいく感触があります。

今までは、仙尾骨の内側の空間に納まっている臓器や組織に

何がしかの緊張があったと考えられます。

 

 

尾骨には、直腸が靭帯で固定されています。

トイレで立ちあがった時に腰に痛みが出ることがある

とMさんが話していたのを思い出し、

排便時に肛門に痛みを感じることはなかったか聞いてみました。

 

 

今は大丈夫だけれど、以前は

排便時に会陰の所から肛門にかけてしびれが起きることがあって、

このままひどくなったら自分で排便できなくなるかも、と思ったりして。

 

 

あとね、生理用品を使うとよじれるのよ。

身体が歪んでるって言われたことがあるんだけど、そのせいかなぁって。

 

 

 

とのことでした。

 

 

生理用品や尿パッドなどが捻じれたりよれたりするのは、

会陰の両側にある骨盤骨格(恥骨枝)の位置が左右でズレている為と考えられます。

つまり、骨盤に歪みがあると言うことになります。

 

 

また、便意は、直腸内の圧力が高まることで生じます。

排便はその圧力を利用して行われますが、

排便の瞬間には圧力が一気に下がることになるので、

腸はぎゅうっと絞られるような緊張感を経験します。

 

⇒以下、再考。

こうして生じた緊張感は、

腸を固定し、腸の安定性を支えている箇所、すなわち

直腸を固定する靭帯と、それが付着する尾骨の内側面へ強く伝わって行きます。

 

 

Mさんのように尾骨を打っている場合には、

尾骨に付着している固定装置そのものにも緊張が生じ、

固くなっている可能性も想像できます。

 

 

排便時やそのすぐ後には、圧力の変化で直腸に強い収縮力が生じます。

本来ならすぐに緩むはずのこの緊張は、

直腸の固定装置に緊張があることで

会陰や肛門のある骨盤底には過度の緊張が加わることになり、

それが痛みやしびれなどの症状として現れたと考えることが出来ます。

 

 

こうした理由から、

会陰から肛門にかけて排便時にしびれがあること、

トイレで用を足したのちに立つと腰痛が出ることは、

互いに骨盤の歪みによって関連しあって生じていると考えられます。

 

 

 

 

仙尾骨の内側面で組織が弛んでいく感覚を確認しながら、

アプローチは後上腸骨棘から仙骨の上縁を辿り、腰仙関節に向かいます。

 

 

腰仙関節では、身体の自発的な反応が長い間続きました。

仙骨の内側面で更に組織が弛んでいく感触があり、

仙骨の表面も含めた周辺一帯の組織が、急にふわっと柔らかくなりました。

これは体内で変化が十分に起きたことを教えてくれる反応です。

 

 

 

 

ここで一旦腰部を離れ、他のポイントへもアプローチして行きます。

左肩甲間部、右前胸部、鼻骨。

 

 

左肩甲間部と右前胸部は、

上半身の反時計回りの捻じれ(脊柱を軸として)を形成していた膠着箇所でした。

 

 

この上半身の捻じれは、腰部の後湾をカバーするために生じたもののようです。

この捻じれに伴って緊張していた右肺から力が抜けました。

 

 

今までは吸気でせり上がった右肺は呼気で閉じずに止まっていましたが、

ちゃんと吐く息で下に下がる様になりました。

 

 

 

全身を見た上で、最後にアプローチすることになったのは

腰仙関節でした。

 

 

腰仙関節を細かく触り、適切なポイントに接触します。

皮膚の他の部分よりも、粘弾性が低くて抵抗感のない柔らかさを帯びたポイントです。

大きさは1ミリにも満たない、極々小さな点です。

 

 

接触するとすぐに、身体の中で反応が始まります。

 

 

今度は仙骨の内側面と言うよりも、

脊柱管から続く仙骨管腔で組織の弛緩が生じている様です。

仙骨管となると、緊張が解けて行っているのは脊髄神経(馬尾神経)でしょうか。

 

 

やがて、下がっていたはずの右後上腸骨棘が

左と同じ位の高さになって来ました。

仙骨の内腔も内側面も、さらに大きく組織が弛んで行きます。

 

 

ポイントが腰椎4~5の椎間に移動しました。

大きく弛んだ仙骨周囲の組織が、

今度はシュ~っと締まり出しました。

 

 

一旦は弛緩して最大限に広がり弛んだ組織に、

結合力と支持力が戻ってきている、そんな感じです。

良い意味での強さが戻ってきている感じとも言えます。

 

 

後湾していた腰椎3~5番が移動し、少しずつ前湾を取り戻していきます。

 

 

ポイントは更に上へ。

腰椎3~4の椎間へ。

 

 

腰椎の3番が前方へと戻り、上下の椎骨との位置関係が安定して来ました。

 

 

本来は前湾しているべき腰椎3番が後ろに出ていた事で、

骨盤はどうやら横に広がっていた様です。

腰椎3番の位置が戻り始めると共に骨盤と腰部の幅が狭まり始め、

ラインが滑らかにスッキリと変化して行きました。

 

 

 

 

終了後、

足の痛みや腰の不安さの記憶が強いMさんは、

へっぴり腰でゆるりゆるりと用心深く動いています。

 

 

今回の身体の変化で

長年付き合って来た腰痛がどのようになるのかは、

次回のMさんの来院を待たなければ分かりません。

ですが、

 

 

「Mさん、腰とか骨盤の辺りを触って

様子を確かめてみて下さいね。」

 

 

「あ~…。(骨盤の両側を触りながら。)

なんていうのかな、

平べったかったのが丸くなったって言うのかな。

(言葉で説明するのが)難しいけど、

(今までと)違う~。

 

 

…腰に彎曲がある!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

症状の必然性~円形脱毛症の事例より

 

目次

症状には必然性がある
円形脱毛症と、様々な対処法
その① 精油の実力
その② 驚きの原油療法
原因解明へ~筋膜的手法を用いて
頭蓋骨は動く
円形脱毛症の背後で、何が起きていたか。

症状には必然性がある

 

「ニキビやシワは、いつも同じ所に出来るでしょ。

そこじゃなきゃいけない理由があるから、そこに出来るんですよ。」

 

まだ整体の学院に通っていた頃、

筋膜療法を教えてくれた師がこんなことを言いました。

 

思えば高校生の頃、

右の頬っぺたにしつこく現れるニキビに悩まされていた私は、

なぜ決まってそこなのかと不思議に思っていました。

 

頬のニキビであれ、頬齢線であれ、額のシワであれ、

みんなに同じように出るわけではありません。

でも、「私」に現れるのはいつも同じ。

 

何故かパターン化して現れるこうした身体症状には、

実はちゃんと理由がある、という訳です。

 

それは、

口の周りのニキビは胃腸の不調のサインだと考える様な、

因果関係がはっきりと分かりにくい理由付けではなく、

その症状を必然的に起こさせる、物理的で特定的で、個人的な原因です。

 

師の言葉のニュアンスからそう理解した私は、

症状の背後には必ずそれに見合った身体の物理的な変調・変化があるはずだ、

というのを半ば信念として施術を行う様になりました。

 

とは言え、最初の内は「恐らくはそのはず…。」でした。

やがて臨床でのクライアントさんの身体の観察を重ねるうちに、

それは「確かにそうだ。」に変わって行きました。

 

症状の背後にある物理的な原因。

それは、実際にはどんなものとして現れるのでしょうか?

今回はそれを教えてくれた臨床について、お話してみたいと思います。

 

 

 

円形脱毛と、様々な対処法

 

今回の臨床例は、私の母です。

身内と言えど実名で明文化するのですから、

ちゃんと事前に承諾はもらいました^^

 

彼女の後頭部には、昨年の年末辺りから

毛髪が大きく抜けている箇所が見られる様になりました。

 

場所は後頭部のほぼ中央。

中央から少しだけ左上に寄っています。

 

10円玉とか500円玉なんて可愛いものではなく、

直径6センチほどの円形です。

上から髪が被さっていた為に気付くのが遅かったのか、

発見した時にはすでにこの大きさに成長していました。

円形脱毛症ー1

1月8日の頭皮の状態

 

大きく地肌が見える頭皮。

表面はパラフィンを塗布した様にテカテカで、奇妙な硬さがあります。

まばらに残った髪は、すべて白髪になっています。

 

齢70、

「もうこの歳だから仕方ないわね~。全然大丈夫、気にしてないから。」

と口では言いつつも、内心は気になって仕方ない様子。

 

事あるごとに頭の後ろを鏡に写し、

よせばいいのに家族に写メを撮ってもらい確認。

「あら~ひどいわねぇ…。帽子を被らないと歩けないわ~。」

…意気消沈。

 

あの~、全然気にしてないって、

誰の言葉でしたっけ?^^;

背中がガックリしてますよ~。

 

内心傷ついている様子を見るのは

家族としても施術者としても忍びないものです。

 

病院に言ったら?と言う声も家族からは上がりましたが、

先に円形脱毛症を経験した友達から

「髪のない所に直接、注射を打つの。髪は生えて来るけど、痛いのよ~!」

と聞いて来た母。

 

病院に一旦は行き、診断を受けて来ましたが、

薬も治療も自分から断って来ました。

 

何らかの症状を体験するのは、とても貴重なことです。

せっかくなのですから、どんな療法に効果があるか試してみよう!

と言う事で、手近な方法を幾つか試すことにしました。

 

本人にしてみれば、症状は辛いかも知れません。

ですが、起きている症状にはちゃんと意味があるはずです。

それを知って欲しいから、何とかして欲しいから、

身体は文字通り「身を呈して」、

何かが起きている事を私たちに伝えようとしてくれているのですから。

 

 

 

円形脱毛症は、いまだ原因の特定や治療法の確立が出来ていない

難治性の皮膚疾患という厳しい側面を持ちます。

実際に経験している方にとっては治癒までの道のりが見えず、

大きな苦しみを伴う可能性があるものなのです。

 

とりわけ、人との違いを厭う傾向性の強い日本社会にあっては、

ことさら人の目を厳しく感じ、精神的に辛い思いをする方も多いのかも知れません。

(参考: 日本円形脱毛症コミュニケーション

 

症状の出ている際の、患部の組織学的な特徴としては、

毛包内にリンパ球の浸潤が見られる、と言う事が挙げられるようです。

 

浸潤したリンパ球によって誤って毛根が攻撃される、

いわば自己免疫疾患ではないかと考えられており、

医療機関ではその認識に基づいて投薬などの治療が行われるようです。

(参照:円形脱毛症/Wikipedia)

 

患者さんに、もしかしたらこの記事を目にされる方もいるかも知れません。

少しでも役に立てばと思うので、

どんなことを試したのかを少し詳しく書いてみますね。

(頭部の症状に対しての試みですので、全身性の場合には当てはまらないかも知れません。)

 

 

 

まず、筋膜での施術。術者は私です。

頭皮は柔らかくなるものの

完全に頭皮の状態が良好になるところまでは回数が必要そうです。

髪の毛がすぐに回復するのを期待するのは、難しい所です。

 

 

 

その① 精油の実力

 

次は、薬理作用を期待して、精油を用いてみました。

頭皮の固さと血流の悪さを緩和できたら良いのではと、

ラベンダーを使用してみました。

 

ラベンダーは本人が最も好んでいる香りと言う事もあり、

感情的に落ち着く効果も考え合わせて選びました。

 

皮膚は柔らかくなり、赤味も引きます。

ですが、皮膚は表面だけが柔らかくなり、ブヨブヨしている感じがあります。

ブヨブヨの状態では血管にも緊張感がなくなり、かえって流れが悪くなります。

 

奥の方には硬さが残り、問題はこちらにあるように感じられます。

表皮には作用したと言えると思いますが、

毛髪が回復する直接の助けにはならないと判断し、他の方法を探しました。

 

たまたまその頃、とある精油のセミナーに出席しました。

講演者だったアメリカ人の医師に相談してみた所、

私の手に触れて、「お母さんと似ているか?」と聞きます。

私の手は乾燥気味で、その時には冷えていたのを記憶しています。

 

その手の感触から、甲状腺の病気をやったことがあるなら、

年齢から考えて甲状腺機能の影響かも知れないよ、と説明してくれました。

母には若い頃、甲状腺機能低下を示す橋本病の疑いがありました。

 

女性の毛髪だと女性ホルモンの影響も考えられそうですが、

それはないだろうとの答えでした。

すでに閉経してから何年も経っており、

ホルモンバランスの急激な変化が原因である可能性は低い、

という見立てなのだろうと思います。

 

医師がその時に薦めてくれたのは、

針葉樹(コニファー類)のブルースプルースという精油でした。

 

ちなみにスプルースとは、トウヒ(唐檜)やエゾマツのことです。

クリスマスツリーはモミノキが有名ですが、元々はスプルースを用いていたそうです。

 

幾つかあるスプルースの中で、ブルースプルースは

ロッキー山脈原産の Picea pungens のことを指します。

ブルースプルース 1280px-Picea_pungens_'Glauca_globosa'_in_Autumnーcc BY-SA 3.0

ブルースプルース (Wikimedia Commonsより/ Picea pungens ‘Glauca globosa’ in AutumnーCC BY-SA 3.0)

ブルースプルースの若い松毬 640px-Picea_Pungens_Young_Cones-cc BY-SA 3.0

ブルースプルースの若い松毬 (Wikimedia Commonsより/ Picea Pungens Young Cones- CC BY-SA 3.0)

 

甲状腺に働きかける事を目的として使うので、

精油は血流に浸透させる必要があります。

 

その為には、肘の内側などの

血管が表皮の近くにあるところへ塗布をするのが良いとのことでした。

(精油は薬理作用を持つもので、皮膚や神経などへの毒性を示す場合もあります。ですので、日本においてはアロマテラピーに関連する協会団体などでは、原則として原液での使用は禁止しています。ラベンダーは一般的に安全な精油と認識されていますが、スプルースは作用の強い精油で、使用にあたっては注意を要することもあります。この場合には医師の指示を仰いでいる事と、自己責任において使用していることをご理解下さい。)

 

母に試してもらうと、

髪の毛はともかくとして目がシャキッとして元気とやる気が出るとの事で、

甲状腺、あるいは頭部の血流に対して何らかのポジティブな作用を与えていたのではないかと思います。

 

 

 

その② 驚きの原油療法

 

またこの時期、これもたまたま行ったのですが、

ケイシー療法に関する講演会に行きました。

 

この講演会では、これもまた たまたま、お土産を頂きました。

それが何と、円形脱毛症や若白髪に有効というシャンプーでした。

 

ケイシー療法ケイシーその人について話し出すと長くなってしまうので、

興味のある方は各自で調べて頂くとして…。

 

ケイシー療法の中では、頭皮の問題には

原油で頭を洗う原油療法を薦めています。

1024px-Korňanský_ropný_prameň CC BY 3.0 (Natural petroleum spring in Korňa, Slovakia)

地表に染みだした天然の原油(Wikimedia Commonsより/Korňanský ropný prameň ー CC BY 3.0)

 

なぜ原油が頭皮に効くのか、

その機序については調べていないので私には分かりません。

 

ただ、元は生物だったものが長い年月をかけて

大地の中で変性したものが原油だと言われています。

(これも、実は諸説あるようです!生物由来説が一応主流のようですが~。

確実に分かっていることなど実はこの世に一つもないのでは…何ていう気もして来ますね~^^; )

 

シャンプーの名前は奇しくも「大地の力シャンプー」でした。

確かに、原油は大地のエネルギーを凝縮したものと言えるでしょう。

 

髪が植物だとすると、頭皮は大地です。

頭皮に不足しているエネルギーを、原油を介して大地そのものから受け取る、

そんなイメージなのかも知れません。

しかも大地の奥深くで生まれる原油ですから、

頭皮の奥にいる毛根に働きかけてくれそうです。

 

 

 

で、効果のほどやいかに。

 

はい、変化ありましたヨ。

わずかに3~4回程度シャンプーを使った後だと思います。

「見て見て!

白かった額の生え際が、黒くなってきた気がするのよ!」と。
(使用効果は人によって差があると思いますので、あくまでご参考まで。)

 

毛髪の抜けた所も確認してみると、

白髪ではあるけれども、剥き出しだった頭皮の周りに髪が増えている気がします。

発見から4か月経過した頃でした。

 

8か月以上経た最近では、

地肌が剥き出しで見える状態は、ほぼ解消したと言えると思います。

 

ちなみに…

あれほど小まめに撮っていた写真は、その都度消していたそうです。

確かに、何度も繰り返し見たい写真ではありませんものね。

私としては全ての過程は大切な記録。残したかったなぁ…なんちゃって^^;

円形脱毛症ー3

8月18日の頭皮の状態

 

原因解明へ~筋膜的手法を用いて

 

母が抜け毛に悩んでいた事が

すでに家族の意識から消え去りかけている昨今になって、

一体なぜ後頭部に円形脱毛が生じたのか、

その原因がやっと分かりました。

 

寝ている時に頭をゴリゴリしているからじゃないの?って思った方、いました?

いえいえ、違うんです。

 

ゴリゴリは抜け毛を助長したかも知れません。

ですが、原因そのものではないんです。

 

 

 

筋膜の施術は、前述したように

髪の毛をすぐに回復する手段としては適当ではありませんでした。

ですが、甦った髪の毛を長生きさせ、著しい抜け毛を再び起こさないように、

土台を整え直すことは出来ます。

 

ここで言う土台とは、

頭皮であり頭蓋骨です。

 

彼女の頭部の特徴を挙げると、

頭蓋の内圧が高く、頭蓋骨は外側に張り出すような形になっています。

元々の頭の形よりも、左右に幅が出ている状態です。

頭皮は張りつめて薄くなり、

頭頂にはまるで小さな角の様な、固いコブがありました。

 

血圧が高めだったこともあり、

以前から頭蓋の内圧の高さは気にかかっていました。

最初に症状の話を聞いた際には、すぐに

頭蓋の硬さと内圧の高さが関係しているだろうと思いました。

 

 

 

施術では、症状のことは念頭に留めながら、

全体のバランスを見て行きます。

症状の改善は全体のバランスの回復に伴って付随的に生じるので

時間がかかる場合もあります。

 

その代わり、全身のバランスの変化をつぶさに観察して行くので、

症状がどのような脈絡の中で生じたのかを把握することが出来ます。

 

例えば、円形脱毛症に頭蓋の内圧が関係していると気付いても、

それが実際にはどんな脈絡で起きているのかを

身体が分かりやすく示してくれるわけではありません。

 

母は、円形脱毛が生じてから5回、

施術を受けに来ました。

 

ある時は足根と首が中心の施術、

ある時は腰と顔、

又ある時は背中と坐骨。

 

頭とは直接関係のなさそうな所へアプローチを繰り返す内に

身体に蓄積していた歪みや緊張が徐々に剥がれ落ち、

やっと隠されていた原因が姿を現して見せてくれました。

それが、5回目の施術の時だったのです。

 

 

 

頭蓋骨は動く

 

原因は何だったのでしょうか?

一言で表現するなら、後頭骨の歪みです。

 

西洋医学の見地からすると、

頭蓋骨は動かないと考えられるのが一般的だと思います。

 

以前、頭蓋仙骨療法(CST)を学んだ際に、

頭蓋骨はわずかながらも動くものであり、さらに

頭蓋骨を構成している骨の一つ一つは異なる動きを持っている、という事を学びました。

 

これは、従来の医学の知識は思っていたほど「確実」なものではなく、

まだまだ疑問をはさむ余地があるという事に気付かせてくれました。

常識や通説とされるものを頭から信じ込むのではなく、

自分の体験や熟考によって評価し直す姿勢が必要なのだと感じさせられました。

 

一つの思考を学ぶと、

私たちはその見方に知らず知らずの内に囚われ、

異なる視点から物事を自由に見る事が出来なくなっています。

偏った狭い見方に囚われてはいないか、

それを自分自身で気づくには努力が必要です。

 

私の場合には、出来事や現象を

解釈を出来るだけ加えずにありのまま受け止める努力を繰り返し、

その繰り返しの中で蓄積される経験的情報の中から

脳が自ずと法則性や意味を発見するのに出来るだけ任せます。

 

そうした取り組みの中で、

頭蓋骨が動くことを私は経験的に知りました。

 

「頭蓋骨が動く」という表現を具体的に説明すると、

骨そのものが動いている場合と、骨の周囲の結合組織が移動することで

見かけ上、骨が移動している様に見える場合との、

2つの状況が考えられると思います。

 

母の場合は、この両方が重なって生じていました。

 

それでは、5回目の施術ではどんな変化が生じたのか、

それを以下に詳しく説明して行きます。

 

 

円形脱毛症の背後で、何が起きていたか。

 

この時の施術で重点的にアプローチすることになったのは、

患部である後頭部と、両足でした。

(施術する箇所は施術者の直感や恣意によって決めるのではなく、身体から物理的な現象として提示されるあるサインに従って決まります。その詳細や具体的な施術法については、ブログ記事「筋膜は、過去を記憶する。」をご参照下さい。)

 

母の足は、ふくらはぎの形が外側に彎曲していました。

この時の臨床では、その彎曲が軽減しました。

 

ふくらはぎの形状が変わると、

今までは踵の骨に対して斜めに乗っていた体重が、まっすぐになります。

 

無理な角度で体重を支える事から解放され、

踵を覆う硬い皮膚に、柔らかさが戻りました。

 

これは、ふくらはぎの変化に伴って、すぐに生じました。

一部分でもバランスが変わると、それは即、全体へ波及します。

 

足裏全体が、柔らかさを取り戻していきます。

これなら、今までよりも楽に安定して体重を支えられるはずです。

 

足元がぐらついている時には身体の軸が不安定になるため、

脊柱は何とか真直性を維持しようと緊張しがちになります。

足元の安定性が回復すると、脊柱のムダな緊張はおのずと解け、背筋は自然と伸びます。

(これは、人によって逆の場合もあります。その方がどんな身体の使い方をし、どのような歴史を身体に刻んでいるかによって、身体の連携のパターンが異なる為です。)

 

足元が安定し、脊柱の負荷が軽くなると、

首から下の安定性に支えられて頭部も変化しやすくなります。

つまり、頭部のバランスの回復には、脊柱や足元の安定が大切な要素になっています。

 

頭部へのアプローチは左耳から始まり、

一旦 乳様突起(耳の下・後方にある突起)へ下ってから後頭部へ移りました。※1

 

 

解説※1

耳や乳様突起などの出っ張ったり尖ったりしている所には、

筋膜が膠着したり、しこりが生じやすい傾向があります。

 

筋肉、筋膜、皮膚などの軟部組織が骨からずれた場合には、

こうした箇所で堰き止められることになります。

それが長い内に凝集を起こして、しこりを形成します。

 

筋膜での施術は、ずれた組織を元に戻すことで身体の構造を整えます。

膠着やしこりがあると元に戻るのを邪魔するため、

施術の際には先にそれを解く必要があります。

耳から乳様突起を経由して後頭骨へという回り道のような経路は、

そこにずれが生じていたことを教えてくれています。※

 

 

後頭部の中央付近へ辿り着くと、

しばらくしてその周囲の頭皮が緩み、さわさわと上へ移動して行きます。

頭皮が自ずから、上へ動いて行きます。

 

その反応が収まるのを待ち、今度は

後頭部と頸椎の境目のくぼみ(啞門穴)から後頭骨の下部周辺にアプローチします。

十四経発揮図譜~督脈~啞門

十四経発揮図譜より/啞門穴(督脈:背骨の真上を走る経絡)

 

少しずつ辺りの皮膚や筋肉が弛んで来ると、

後頭骨の下部の広い範囲に渡って、大きなしこりが現れました。※2

 

 

解説※2

組織は、何層にも重なった構造をしています。

そして層ごとに、様々な緊張や歪みの力を帯びています。

 

表面の組織が固まっている時には、物理的な組織の固さとそこに含まれる歪力の

両方の作用によってベールが掛かったようになっており、

奥の組織でどんな変調が起きているのかをきちんと把握することが出来ません。

 

表面を覆っていた層の固さと歪力が解けた時に初めて、

奥の状況が鮮明に見えるようになります。※

 

 

 

しこりはどんなに硬くても、正確に適正な接触をすれば

力を使うことなく弛み、ほどけます。

 

後頭下部のしこりが解け始めると、ここでもまた

解けて弛んだ組織は上へと移動して行きます。

 

その動きに伴って、

後頭骨自体が、反時計回りに回転し始めました。

 

後頭骨は本来の形と位置へ戻ろうとしているようです。

広がっていた頭部の幅は狭まり、前後に厚みが出てきました。

頭部は、より立体的な形へと変化して行きます。

後頭部でのしこりの移動

始めに確認した際、

母の頭蓋骨は内圧が高く、幅の広い形をしていました。

 

母に自分で触って確かめてもらったところ、

「え~!こんなに小さくなるの!?」

「頭が丸い~」と。

 

元々の母の頭の形は、

小さくて立体的で、スッキリとしていたのです。

後頭骨はこの状態を回復する為に反応し、能動的に動いたのだと思われます。

 

 

 

反応が収まった後に頭部をよく調べると、

後頭骨中央の少し左上の辺りに、

今まで無かったはずの隆起が現れていました。

 

ここは円形脱毛が生じた、まさにその位置です。

隆起の大きさも、髪の毛の抜けた領域とちょうど重なります。

 

 

 

施術は、身体に緊張や捻じれなどが蓄積された順番を逆から辿ります。

いわば、体内の時間をさかのぼって行くのだと言えるかも知れません。

 

最後に現れた後頭骨の左上の隆起は、

むしろ古くから体内にあったものだと考えられます。

 

隆起部分は、筋膜を中心とした組織が緊張などによって凝集・膠着したもので、

文中で「しこり」と表現しているものと同じ性質のものです。

 

ここは、いわば「緊張の塊」と言いかえられるかも知れません。

静的に固まっているのではなく、能動的な収縮する力を帯びています。

 

強い緊張や収縮は、身体にとっては負担です。

後頭骨が回転して歪んでいたのは、

隆起部分の強い緊張を分散する為だったのではないかと思います。

 

ですが、「緊張力」は分散できても、

物理的な隆起そのものは残ります。

隆起を形成する凝縮力は、非常に強いものだからです。

厄介な事には、後頭骨が回転したことで

見かけ上、頭部は平らになっていました。

本当は隆起するほどの緊張があることが、表面的には隠されてしまったわけです。

 

こうして、根深く居座った隆起の上には、

その力に引き込まれるように更なる緊張が堆積して行きます。

 

緊張のある個所では、

血流やエネルギーなどの様々な流れが低下します。

そこに毛根があれば、毛髪を育てるだけの十分な栄養が届かない事になります。

 

また、隆起した組織やしこり、膠着などは、

組織にずれがあることを示しています。

(皮膚・筋肉・筋膜という軟部組織間でのずれのこともあれば、骨と軟部組織とのずれのこともあります。これは、いわば地層がずれるのと同じ現象です。)

 

組織間のずれが毛根付近で起きた場合、

毛包はそれによって引っ張られたり縮められたりするはずです。

毛包が変形すれば、リンパ球が浸潤するスキマが出来るかも知れませんし、

毛根での細胞同士の連携が乱れ、新しい毛髪を形成しにくくなるかも知れません。

 

この隆起の出現によって、

円形脱毛の大きさに見合うだけの原因はちゃんと存在していたのだと、

母と共に納得したのでした。

 

 

 

 

 

胎児は、理解する。

 

 

施術を行っていると、人間と言う存在の不思議さや神秘性を

まざまざと感じさせられる体験をすることがあります。

 

筋膜という、私達の身体の構造を支える組織を扱う施術は、

連続的で精妙な変化を構造に引き起こして行きます。

 

例えば、右の親指の付け根を施術していたら、右肩の巻き肩が戻り、

心臓の裏あたりでズレていた胸椎もまっすぐに戻った、

と言うように。

 

このような構造の変化の過程を観察していると、

それが何の関わりから生じていたのか、その因果関係も見えて来ます。

それゆえに、不思議さや神秘性に気付かせてもらえる事も多いのかも知れません。

 

今回は、そうした体験の中でも、

とりわけて印象に残っている臨床について話して行きます。

胎児には物事を理解する力があることを、分かりやすく教えてくれた体験です。

 

 

出産を1か月後に控えて

 

Yさんが初めて当院にいらしたのは、

初めての出産をほぼ1か月後に控えた時期でした。

 

Yさんは普段からよく内省をし、

ご自分の心の動きや身体の状態などを

つぶさに把握されています。

 

妊娠してからも、自分の身体や感情を観察しながら、

体調や感情のバランスを維持して来ていたそうです。

 

出産まで残すところ1か月ほどとなり、

増々大きくなるお腹に身体のきつさも増してきました。

 

どうしても呼吸が浅くなるので、気持ちがウツウツして来て…。

ここに至って、自分の取り組みだけでは難しいと感じるようになったそうです。

 

身体が大変なのは仕方がないとして、何よりも

心の状態に影響が生じていることを辛く感じるとの事でした。

 

身体に歪みや癖があると身体の負担は大きくなるのでは、

と普段から思っていたこともあり、

身体の状態が改善できれば気持ちも楽になるかも知れないと考えて、

ご来院されたのでした。

 

小柄で華奢な体型のYさん、

腰をかがめて玄関の靴をそろえるなどの中腰の作業は

まだこの時点では無理なく出来ている様子でしたが、

お腹は重たそうに見えました。

 

 

問題は、胸郭の狭さにあった

 

施術は、

右乳房を中心とした右胸郭へのアプローチになりました。

 

乳房が左右同じ大きさで、

同じ位置にきれいにそろっている事が意外に少ないという事は、

女性ならば気付かれている方が多いかも知れません。

 

これは、一般的には筋肉の発達の違いと理解されている様ですが、

筋膜的な見方からは違った理由が考えられます。

一つには胸郭の歪みの影響が考えられ、胸郭の変化に伴って改善する可能性を持ちます。

 

Yさんの場合は、右の乳房の下部と外側はしこりのようにカチコチに固まっており、

その為に左よりも乳房が大きく見えます。

また、乳房とお腹がピタッとくっついていてスキマがありません。

左側では、ちゃんとスキマがあります。

 

乳房とお腹がくっついてしまっているということは、

右側では胸郭の下部の空間が圧縮されていることになります。

肝臓や肺、横隔膜が配置された重要な空間です。

 

空間が狭くなれば、圧力も高まります。

大切な臓器も、圧されて緊張が高まっているかも知れません。

 

すぐに症状が出る程の強い影響ではないかも知れませんが、

圧迫されたり、緊張が高くなったりしていると、

それぞれの器官は持てる力を十分に発揮するのが難しくなり、パフォーマンスが下がります。

 

例えば肝臓なら、身体の疲れやすさとして影響が出るかも知れません。

肺や横隔膜ならば、呼吸を浅く感じ、

疲れやすかったり頭がはっきりしないという出方かも知れません。

 

 

乳房の硬さは、胸郭を歪める

 

Yさんの右乳房の下で胸郭が狭くなっていたのは、

他ならぬ乳房の影響でした。

 

乳房の周囲にあったしこりは、組織が緊張によって凝縮し、

その場に膠着したものです。

 

乳房で生じた膠着は、その奥にある肋骨にも影響を与えます。

膠着によって肋骨は互いにくっつき合い、

今度はそれが胸郭全体を下へ押し下げます。※1

 

※1 胸郭は、吸気では肋骨同士が開きながら上に上がり、
呼気では閉じながら下に下がります。

 

施術では、この乳房のしこりを解くことに時間を費やすこととなりました。

 

乳頭のまわりを中心として※2、

乳房に網の目のように張り巡らされた細かい緊張※3を辿って行くうちに、

まず右乳房の下部にあった膠着が解けて柔らかくなり始めました。

 

それと共に、右肩にも変化が起きました。

肩は自ずと、外へ広がって行きます。

 

※2 乳房や恥骨などの繊細な部位への施術の際には、事前にクライアントさんの承諾を頂いています。

※3 筋膜上には、緊張の痕跡が線状で形成されます。
詳しくは、こちら(https://inemurino-ki.com/fascial-traces/)へ。

 

 

 

膠着と言うと、無機的に固まっているイメージがあると思いますが、

生体内ではそうではありません。

 

膠着した箇所では、筋膜の凝縮が生じています。

ここは「凝縮する力」を帯びつづけ、他の箇所へも作用を及ぼします。

 

乳房のしこりが弛むことで肩が広がったという一連の変化から、

乳房に生じていた膠着によって肩が内側に引き寄せられ、

胸部の狭く息苦しい状態を助長していたのが分かりました。

 

変化はさらに続き、身体構造が

力学的な作用によってどの様に繋がり合っているのかを示してくれます。

 

右側の乳房と肩が変化すると、今度は

下に押しつけられて閉じていた胸郭で、

体内の空間がふわっとゆるんで広がる気配がしました。

 

胸郭の状態は、肺の状態に直結しています。

胸郭が締まっていれば、肺も締め付けられています。

胸郭がゆるんで柔軟になれば、肺と横隔膜の緊張も一緒にゆるみます。

(肺の緊張で胸郭が締まっていることもありますが、それはまた別の機会に。)

 

 

それまで静かだったお腹の赤ちゃんがモゾモゾと動きだしたのは、

この時でした。

 

赤ちゃんの動きは活発です。

何をしたいのかは分かりませんが、動きには迷いがありません。

 

しばらく見守っていると、

それまでいびつだったYさんのお腹が

左右対称になったことに気付きました。

 

 

胎児は、「心地よさ」を自分で探す

 

Yさんの赤ちゃんは、いつも

右の足の付け根(鼡径)のところに頭を収めています。

これは担当の産科医も言っていたそうで、その位置にいるのが習慣でした。

 

母体の鼡径部の辺りに頭を収めると、

赤ちゃんのお尻や背中は右の脇腹の方へ寄りかかることになります。

Yさんのお腹に最初に触れた際に、左右で全く違う形に感じたのはこの為でした。

 

やがて、赤ちゃんの動きが止まりました。

お腹に触れて確認してみると、やはり左右対称になっています。

正面は、きれいな丸みを描いています。

 

ははぁ~…!なるほど~!

正しい姿勢に戻ろうとしてたのか!

赤ちゃんは自分から動いて、

お母さんの骨盤の中に頭を戻そうとしてたんだ。

 

しばらくすると、なだらかに丸くなったお腹の真ん中の辺りが

規則正しい大きなリズムで動き始めました。

赤ちゃんが、すやすや眠り始めたようです。

 

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赤ちゃんがモゾモゾと動き出したのは、

胸郭が広がるのと同時でした。

 

右側の胸郭で生じていた空間の圧縮は肺や横隔膜だけでなく、

赤ちゃんの居心地にも影響を与えていたことが、この反応から分かります。

 

胎児は胎内の空間の心地よさを、どうやら思った以上の敏感さで感じ取り、

それに対して自分なりに反応をしていると言えるのではないでしょうか。

 

母体の体腔(お腹や胸郭、骨盤などの体内の空間)に左右差や歪みがある時には、

胎児も自分なりの工夫によって、

安定して落ち着いていられる位置や状態を探すのかも知れません。

 

 

母体への呼応

 

右乳房へのアプローチには、かなり長い時間が掛かりました。

長年の蓄積で出来たと思われる、頑固で広範なしこりだったためです。

 

しこりが解け、膠着を形成していた組織が伸び広がりながら元の位置へと戻り始めると、

乳房全体に柔らかさが戻り、左右差もなくなって来ました。

 

次に向かったのは、空間の狭くなっていた肋骨下部でした。※4

 

※4  施術では線状に現れる緊張の痕跡を辿ります。施術者の判断ではなく、
身体が体表に現すサインに従って、アプローチをする部位が移り変わります。

 

 

肋骨下部を構成する第8~9肋間は、

胸郭の中でも肋骨が変形を示しやすい所の一つです。

 

外側の構造は内側の状態に影響を与えると共に、

内側の臓器の状態を反映します。

 

第8~9肋骨で変形が生じている事が多いのは、

肋骨の内壁に付着している横隔膜が、この高さの辺りで

腱中心へ向かって走行の方向性を変えるからかも知れません。

 

ここへのアプローチでは、肋骨下部の内腔で変化が起きました。

肋骨下部と言えば、ちょうど肝臓があります。

 

その内腔を圧縮していた力が解け、空間が上下に広がって行きます。

肝臓が少し上に上がり、お腹の天井が上に広がったようです。

 

構造の変化の様子が、手の感触を通して伝わって来ます。

 

 

トントン…。

肝臓の底面の辺り、ちょうど空間が広がったばかりの所から

今度はお腹を蹴る気配がしました。

 

その蹴り方はまるで、

空間が本当に広がったのかを確かめているような、

空間が広がって行くのを手伝っているような…。

 

測ったようなタイミングの良さで起きた、赤ちゃんの2回の反応。

1回なら偶然かも知れません。2回以上は、偶然とは言えません。

これは明らかに、母体の変化に呼応しています。

 

 

お腹の形と重心の変化

 

施術はその後、第8~9肋間と乳房とを

何度か行ったり来たりしました。

 

長い年月に渡って緊張を蓄積している所では、

緊張が飽和すると他の箇所へ力を分散させ、そこが飽和するとまた他の所や元の場所へ…と

力の再分散・再分配を行っていると思われます。

 

そうして、互いに緊張を行ったり来たりさせている内に、

様々な場所が緊張によって結びつきあう、と言う事が起きている様なのです。

 

そのため、同じ所を行ったり来たりしながら繰り返しアプローチする、

ということが筋膜の施術では頻繁に起こります。

 

乳房と第8~9肋間とを繰り返しアプローチする内に、

肋骨下部の内腔は更に広がって、乳房の高さも左右で揃ってきました。

 

腹部にも変化が起きていました。

 

乳房と胸郭の緊張に押されていたお腹は、

最初はその最大径がお腹の真ん中より下にありました。

 

 

腹囲の頂点が下の方にあるとお腹は重く見えますし、実際に重く感じます。

お腹の重心が、中心よりも前下方に傾くためです。

 

 

腹壁の強度と胎児の安定性

 

施術後、最大径が上に持ち上がったYさんのお腹は、

最初よりも曲線がなだらかで、重心が後ろに下がりました。

お腹だけでなく、腰にかかる負担も軽そうです。

 

胎内の赤ちゃんにとってはどうでしょうか?

 

重心が前方に傾いたお腹の場合には、

腹壁を内側から支える腹膜※5は伸びてしまい、その強い支持力を失います。

内側から腹壁を押すと、十分な抵抗感が得られない状態です。

 

一方、お腹の重心が真ん中に近い状態では、

腹膜によって裏打ちされた腹壁は適度な強さを持つと考えられます。

 

本来なら、赤ちゃんが内側から寄りかかっても

その体重を十分にホールド出来る支持力を持っていることは、

Yさんの姿から見て取ることが出来ました。

 

※5 腹膜も筋膜と同じ結合組織の一つであり、構造を支える役割を持ちます。

 

 

Yさんの赤ちゃんには、お腹の右側に身を寄せる習慣がありました。

右側は、緊張によって空間が狭くなっていた側です。

なぜ、わざわざ狭苦しい所へ納まることを選んだのでしょう?

 

答えは、左右の腹壁の強度の違いだったのではないでしょうか。

身体を寄せていた右側は、緊張の為に腹壁の抵抗力が高くなっていたと考えられます。

 

広々として、でも支えの弱い左側より、

狭いけれどもしっかり身体を支えてくれる右側の方が、

安心感があったのだろうと思います。

 

 

胎児も一緒に施術を受けている

 

施術は、肺門のある右第3肋骨の上縁を通って

最後に胸の中央にある壇中という経穴(ツボ)に辿り着きました。

 

壇中に触れていると、胸郭の中で動きが生じてきます。

胸全体と胸肋関節が弛み、胸骨の内側で空間が広がって行きます。

 

体内の空間が広がる変化は、

内腔にかかっていた圧力が抜ける様な感触として、

体表から感じ取ることが出来るものです。

 

Yさんの閉じていた胸がす~っと開いて、

施術は終わりとなりました。

 

お腹の赤ちゃんは、

トントン足蹴をした後からは

身動き一つせずにおとなしく眠っていたようでした。

 

 

この時の施術は、私の中に不思議な感覚を残しました。

 

最初の内は、間違いなくYさんとの施術でした。

母体の変化に胎児がはっきりと反応を示してからは、

施術はYさんに対して行っているのか、

はたまた赤ちゃんに対して行っているのか、区別がつかなくなりました。

 

赤ちゃんが示した2回の反応については、この時点では、

胎内の変化を物理的な刺激として感じ取って、

条件反射的に反応をしたのだろう、と考えていました。

 

 

胎児の理解力と、思いやり

 

少し日を置いて、

体調はどうかを訊ねる主旨でYさんにご連絡をしました。

 

返信には、こんなことが書かれていました。

 

『歩いているとき、

足の付け根がしびれた感じがすると少し立ち止まって休むのですが、

 

今までと違うところは、

赤ちゃんが自分で居場所を移ってくれるようになりました。

 

しびれないような場所に移ってくれるので、また歩きはじめます。

不思議です。』※6

※6 感想やメール内容の掲載は、ご本人のご了承の上で行っています。

 

 

皆さんなら、これを読んでどう思われるでしょうか?

一読して、私は感動と共に、衝撃を覚えました。

 

右足の付け根はのしびれは、Yさんの主訴の一つでした。

その一因が、胸郭や腹部の構造の歪みと

胎児がそこに頭の重さを乗せる事にあることを、

施術を通してYさんも理解されていました。

 

その赤ちゃんが、

Yさんが右足にしびれを感じた時に

体勢を変えてくれたのです。

 

母親の心理的な動きが胎児に伝わっているのは、

今では誰でも当たり前に理解している所です。

 

赤ちゃんが、Yさんが辛いと思ったことに反応したのか、

Yさんの身体が発する痛みの信号に反応したのかは分かりません。

 

ですが、

Yさんの状態と自分の姿勢に関係性があることを赤ちゃんが理解した。

そしてYさんの為に動いてくれた。

このメールからはそう読み取れました。

 

 

施術の時には、腹部の空間が整ったのをきっかけに

自発的な移動が起こりました。

正常な姿勢に戻った方がより快適だった為に、移動したのだと思われます。

 

今回は状況が違います。

動いて居場所を変えたのは、

赤ちゃん自身の快適さの為とは考えにくいのです。

 

施術の中では、母体の構造の変化によって体腔が緩やかに広がって、

母親はリラックスした深い呼吸をする様になりました。

 

これは、Yさんだけの体験ではなかったのでしょう。

赤ちゃんにとっても明らかな体感を伴った変化であり、

母親と自分の状態の関わりを理解するきっかけになったのかも知れません。

 

Yさんが伝えてくれたこの後日談は、

赤ちゃんには母親に思い遣りを示すような思考力がある、

そんな可能性を教えてくれている様に思うのです。

 

 

 

関連記事:Yさんから頂いた感想

 

 

筋膜は、過去を記憶する。

 

 

「筋膜などの結合組織には、記憶が保持されている可能性がある。」

 

そう述べているのは、

多くの公開実験を通して、オーラフィールドの構造や機能を

詳細に研究したロザリン・ブリエール氏。

 

彼女の実験の中には、筋膜を用いた施術として広く認知されている

ロルフィングの創始者・アイダ・ロルフ女史と共に行ったものもあり、

筋膜への理解の深さは実証的な裏付けのあるものと受け止められます。

 

今回は、ロザリン女史のこの言葉を追体験するような、

興味深い臨床についてお話をします。

 

 

筋膜の両義性

 

筋膜は身体の各器官を包み込み、つなぎ合わせています。

体熱の保存や、循環系や神経系の機能の状態とも深く関わっていますが、

何よりも、私たちの身体の形を今あるバランスに保っている点で

特殊な重要性を持つと言えます。

 

 

本題に入る前に、

筋膜の性質について少しお話したいと思います。

 

皆さんは、膜組織と聞くと

「柔らかいもの」だと連想しませんか?

 

…柔らかいものが身体を支えるなんてあるわけがない。

支えるなら、やっぱり骨のように固いものでなくては。

 

私達には、無意識の先入観があります。

それは、物理学や化学や、地球の上での約束事を教育の形で学ぶ中で、

自然と「当たり前」だと覚え込んでいる様な事柄だったりします。

 

筋膜の施術をする前は、私自身、膜組織で身体が支えられているなんて

想像もしていませんでした。

説明されたとしても、イメージすることが出来ませんでした。

 

筋膜は、強度や形状がいかようにも変化します。

時には、「あれ?こんなところに骨があったかな?」と、

軟骨と間違えるくらいの固さで凝縮することもあるようです。

 

鶏皮を剥がす際、薄く白い膜が身と皮をつないでいます。

あれは、筋膜の一つです。

薄いのに丈夫で、相当な力を加えてもなかなか剥がれません。

弾力性のある線維構造で筋肉を包み込み、

腱を介して骨へと接合し、骨格の位置関係を決定しています。

 

内臓を包んでいる腸間膜なども、

同じように内臓の位置を安定させる役割を持ちます。

 

柔らかい組織でありながら、身体を支える筋膜。

経年の身体の癖によって位置のズレた骨や筋肉を

筋膜が「能動的に」戻すことはありませんが、

それ以上のズレを生じないようにストッパーの役割は果たします。

 

ストッパーは多くの場合、

過緊張によって形成された筋膜上の局所的な拘縮やしこりが、

その役割を担います。

 

筋膜の緊張はバランスのストッパーであると同時に、

私達の動作の伸びやかさや軽やかさを始めとして、

様々な機能の自由度を削いでいくものでもあります。

 

一方では身体のバランスが崩れないように支えているものが、

一方では身体の機能を抑制する原因にもなっている。

 

筋膜は、両義的な性質を持っているとも言えるかも知れません。

 

 

筋膜への情報の保存

 

この様に逆説的な性質をはらむ筋膜ですが、

そこへの情報の保存は、一体どのような形で行われるのでしょうか。

 

結論から先に述べてしまいますと、

物理的な形状として刻まれます。

 

形式は一つだけではないかもしれませんが、

少なくとも臨床で生じた現象を見る限り、

形として刻まれることがあると言えます。

 

臨床で目にしたのは、本当に見事な形状記憶でした。

「うわ~、身体に出来事そのものが刻まれるのかぁ!」

と思わず唸ってしまったほどですから。

 

 

身体に刻まれる「体験」

 

Aさんは10年ほど前、

オイルヒーターの角でお尻を強打しました。

 

あまりの痛さで起きているのも辛い程でしたが、

海外旅行から帰国するための準備をしていた最中のこと。

そのまま帰りの飛行機には乗りましたが、

空いた席を借りて、横に寝た状態のまま戻ってきたのだそうです。

 

私もここ1年の間に尾骨を強打しましたが、

打ち方が悪いと尾骨は本当に辛いものです。

頭から一気に血の気が引いて急激な貧血状態になり、

しばらくは頭を上げられずにうずくまっていたのを思い出します。

 

Aさんには、今までに施術の中で何度か

尾骨のまわりにアプローチをしたことがありました。

 

(アプローチする箇所は、施術者が恣意的に決めることはありません。

身体が手放す準備の出来た所を示してくれるので、

それに従います。)

 

ですが、きれいに過去の傷跡が癒えた、という感覚はまだ得られておらず、

何か残っているんだなぁ、出るべきものが出てないなぁ

という感触が残っていました。

 

 

 

尾骨には、坐骨に向かって伸びる仙結節靭帯と、

坐骨棘へ向かって伸びる仙棘靭帯が付着しています。

靭帯もまた、筋膜と同じ線維構造の組織です。

 

二つの靭帯は、骨盤を構成している腸骨と仙骨を強力につなぎ、

互いの位置関係を安定させる役割をしています。

 

仙結節靭帯 仙棘靭帯3

 

Aさんへの施術では、

尾骨の、しかも右側一帯ばかりに

集中的にアプローチすることになりました。

 

施術が経過して行き、

通常ならあるはずのない「溝」が突如として現れたのは、

まさにここでした。

 

溝の形状はまるで、

薄い板状のものが深く入り込んだ痕跡の様でした。

 

そうです。

ちょうど、薄い金属の板であるオイルヒーターがお尻にぶつかり、

勢いをつけて深く食い込んだ瞬間についた様な形状です。

 

 

刻まれた痕跡を解く

 

施術の経過は、次のようなものでした。

ここからは少し専門的な説明になります。

 

施術は、まず骨格全体の安定性と歪みを検査しながら

骨と皮膚や筋膜などの結合組織との間の大まかなズレを修正して行きます。

 

その上で、今の身体の状態の中で

バランスを崩すもっとも大きな要因になっている箇所を特定し、

ポイントを絞ってアプローチします。

 

この時の施術では、

最終的に絞られたポイントは、腰仙関節(腰椎5番と仙骨の間の関節)でした。

 

最終的なポイントと表現しましたが、

それは「ここで終了」を意味するのではありません。

ここからいよいよ施術の最重要部へと入って行く、入り口です。

 

その最終ポイントとしてなぜ腰仙関節に行き着いたのか、

腰仙関節とAさんの症状全般や全身の状態とはどう関連しているのか。

 

本当の意味での根源的な原因を求めて、

筋膜上に記された痕跡を辿りながら

身体に刻み込まれた時間をさかのぼります

 

筋膜上の痕跡は腰仙関節から下に下り、

仙骨の中心線(仙骨稜)を辿って仙骨の先端(仙骨尖)の右側へと続いて行きます。

 

その周辺には前述のように、仙結節靭帯があります。

筋膜の痕跡はそこで進むのを止めると、

同じところをグルグルと巡り始めました。

 

仙結節靭帯の尾骨に近い辺りを行きつ戻りつ、

同じポイントに何度となく引き戻されながらいる内に、

「溝」は尾骨の右側に姿を現わしました。

尾骨を、右側からえぐるような角度で。

 

 

過去の体験が、体表に再現される

 

Aさんは、

左右のふくらはぎが外に開きやすく※

殿筋が上に上がりやすいという

身体の特徴をもっています。

仙骨も尾骨も、殿筋と共に上に上がっています。

 

※「深部の筋膜は両脚に特有な輪郭を与え、これを包み保護する」

~L.Chaitow 『軟部組織の診かたと治療』より~

この一説からも、筋膜によって身体の形状そのものが左右されていることが分かる。

 

仙結節靭帯の尾骨寄りの辺りを集中的に辿っている間に、

まず骨盤(腸骨)から足先にかけての身体のアウトラインが滑らかになり、

筋肉の感触も柔らかくなって来ました。

 

同じ所をグルグルと経巡ることからやっと抜け出すと、

少し下へ移動して行き、

坐骨と尾骨の間に位置する坐骨下枝にトンと触れました。

 

軽く触れた瞬間、

まるで合図を待っていたかのように右側の下肢のむくみがす~っと、

あっという間に抜けて行きました。

 

Aさんの下肢には以前からむくみが根強くあり、

十分な変化をなかなか示さない所でした。

 

周囲のむくみが抜けるに伴って、

トンと触れた辺りを中心にして

斜めに走る凹みが現れ始めました。

 

しばらくしてそれは、「溝」になりました。

通常は溝などあり得ない所です。

 

これは、あっと言う間の変化でした。

あまりにも唐突だったために、

傷跡らしきこの溝は、ひょっとしてパラレルワールドから現れたのでは…、

なんて考えも頭をかすめました。

 

この三次元世界と平行に存在している時空間、

そこに保管されていたAさんの傷跡が、

隠されていたスイッチを押したら飛び出て来たのかも…と。

 

身体が過去に経験したことが

そのまま立体的な記録として残され、

それが相当な時を経た後に現象として丸ごと再現されたのです。

 

 

出現した溝がAさんの過去の受傷に由来すると分かったのは、

身体が変化して行く過程で昔の傷跡や症状が一旦再現され、再体験するケースが、

今までにも何度もあった為です。

 

私自身も、小さい頃はよく坂道で転んでケガをしていたのですが、

よく傷を作っていた右膝が変化した際に、

皮膚表面にギザギザの傷跡が再現された体験がありました。

 

症状の再体験は辛いものであることもありますが、

潜在化してしまった原因を顕在化し、意識で捉え直すという大切な過程です。

それを経てこそ、身体に残され、隠されていた原因を、

身体自らが手放すことが可能になるようです。

 

 

身体の「今」と結びつく過去の体験

 

再現された「溝」を埋めるのには、かなりの時間が必要でした。

溝のある辺りを、グルグル、ウロウロ。

筋膜上の痕跡をひたすら辿ります。

 

溝の辺りは、体組織が緊張で締まって凹みを形成していました。

次第にそれがゆるみ、溝がだんだんと浅くなって行きます。

 

やっと溝から抜け出すと、

尾骨の先端を通り抜けて左の殿筋へ。

左側でも、アプローチをしたのは仙結節靭帯でした。

 

左仙結節靭帯に触れた瞬間、

今度は右のふくらはぎが変化をし始めました。

 

先ほども述べましたが、

Aさんのふくらはぎは両方とも、外側へ張り出す形をしていましたが、

左仙結節靭帯に触れると同時に

右ふくらはぎが内側にす~っと寄る様な動きを示しました。

腓腹の変化6

 

仙結節靭帯は、坐骨と仙骨・尾骨をつなぎます。

そして、坐骨においては大腿後面の筋肉の内、

大腿二頭筋と半腱様筋と直接接続しています。

 

大腿二頭筋は腓骨頭へ、

半腱様筋は脛骨の内側上部へ付着します。

つまり、靭帯・筋肉のつながりから見ても、

仙結節靭帯はふくらはぎと直接的につながっていると言えます。

 

しばらく、ふくらはぎの自発的な反応は続きました。

反応がひと段落した時には、ふくらはぎの輪郭はスッキリとして見えました。

 

 

筋膜の痕跡は再び移動を始め、

仙棘靭帯の付着する坐骨棘の辺りへと向かいます。

 

坐骨棘の辺りへアプローチし始めると、

今度は左の骨盤(腸骨)が閉じ始め、

しばらくして左ふくらはぎに変化が生じました。

 

先ほどの右ふくらはぎと同じように、

左ふくらはぎも形状が変わり、輪郭が整いました。

 

その後は、尾骨尖端へ移動。

尾骨尖端へのアプローチでは、

仙骨の内側面に付着する膜が下に引っ張られる様な反応を示しました。

 

Aさんの仙骨と尾骨には、

後ろへ飛び出る様な形の特徴がありました。

極端ではありませんが、出っ尻傾向と言えます。

 

尾骨尖端に向かって仙骨の内側の膜が下へ移動する感触と共に、

仙骨の内圧が抜けて来ました。

 

解剖学書を確認すると、

仙骨の内側面には実際に前縦靭帯が走っています。

脊椎の前面を走り、仙骨・尾骨まで続いています。

 

仙骨の内圧が抜ける感触と共に、

仙骨・尾骨が平らになって行きます。

通常よりも位置が上にあった尾骨も、

これに伴って下に戻って来ました。

 

こうして骨盤・下肢に変化が生じ、

骨盤全体の中にふ~っと緊張が緩む感覚が広がった所で、

施術は終了となりました。

 

 

「過去」は活きた力として身体に作用している

 

Aさんの症例から、過去の傷跡が身体に刻まれていただけでなく、

それが今現在の身体的な特徴とも結びついていたことが分かります。

 

過去の傷跡が変化したことで、

その特徴的な形に見えていた部分も変化することが出来ました。

 

その人を特徴づけている部位や形状は、

変わることのない固定的なものではないことが分かったのと共に、

身体が変化して行く為には、アプローチの順序があったことも分かります。

 

過去の記録は、身体の中で静的に眠っているわけではありません。

常に生きて、活動しています。

新しく身体に蓄積して行く記録と密に結びつき、その形成に影響を与えているのです。

 

記録同士の結びつきは、時に幾つも重なり合い、

複雑になります。

 

その為、

身体の構造的なバランスを根本的に整え、

根源的な意味での健康を回復しようとするなら、

 

身体の声に耳を澄ませ、身体が私達に示してくれる順序を

尊重する必要があるのです。

 

 

 

 

 

 

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