福ちゃん、またね。

「福ちゃん」とは馬の名前です。
食い意地が張っていてワガママ、
傍若無人だけどどこかヒョウキンで愛らしい、
そんな雌馬でした。
 
 
殺しても死にそうもないタマだと思っていたのに、
先日、あっけなく旅立ちました。
福ちゃんに寄せて、今日は少し思い出話を・・・。
 
 
私は、整体の仕事を始める前は
馬専門の牧場にて7年ほど働いていました。
馬と言ってもサラブレッドのような
スマートな外来種ではなく、
日本に昔からいる種の血脈を引き継いでいる、
小振りだけれど重量感のある馬たちです。
 
 
在来和種と呼ばれていますが、私が勤めていたところは
その中でも木曽馬を中心に、
生産・育成・調教・営業、馬に関する事業全般を
手掛けているところでした。
 
 
同じ土壌で育っているためか、
木曽馬の気質は非常に日本人と近いと思います。
たとえば、何か遠くで不審な物音がした場合、
サラブレッドは考える間もなく反射的に駆け出します。
 
 
一方で木曽馬は一瞬、う~ん・・・と考えます。
音がどの方角からして、果たして怪しい音なのかどうかを、
動く前に考える様です。
で、驚く必要がないと判断すれば、
慌てず騒がず、動じません。
 
 
この動く前の「間」が、
人間がものごとを判断する間合いと、同じなんです。
乗っている人間にとっては、この間に
馬の反応に対処する心の準備ができるので、
乗っていて安心感があります。
 
 
福ちゃんは、そんな木曽馬の中でも
ひときわ肝っ玉の据わった馬でした。
年齢を経ていたこともありますが、
福ちゃんが先頭を歩いていると
後ろからくる馬達も安心して歩くんです。
 
 
馬は群れの動物ですが、群れの先頭は
もっとも賢い雌馬が勤めます。
牡馬は、群れを守るように
最後尾から付いていきます。
 
 
牧場のクラブハウス(と言ってもコンテナハウスですが・・・)で
人間がお菓子を食べつつ談笑していると、
窓から、ぬ~っと長くて大きな黒い顔が中をのぞきます。
「何おいしそうなもの食べてるの~。ずるい~。」
とでも言いたげな顔です。
 
 
少しすると、入口からゴトンゴトンと大きな音がして、
中にまで入ってきちゃったり。
それを、「福ちゃん、床が抜けるから入っちゃダメだって~!!」
と慌てて、みんなで巨体を押し戻したりして。
 
 
自然体で自分らしくあることが、
その存在にとっての一番輝く姿、
可愛らしい姿であるというのが、
今の私自身と、私の仕事を支えている信念の一つです。
それに気づかせてくれたのは、
そんな福ちゃんだったように思います。
 
 
福ちゃん、ありがとうね。また会おうね!