自己再生する身体



目次
1.治癒の前段階としての「組織の溶解」
2.トカゲの尻尾に負けない!? 驚きの指の再生劇!
3.思い込みを手放し、真摯に現象と向き合う

 

治癒の前段階としての「組織の溶解」

 

湿潤治療、という傷の手当法を

聞いたことがありますか?

 

従来の傷の手当では、

まず傷口の細菌の増殖を防ぐために乾燥させ、

傷口を消毒するのが定番でしたよね。

 

これは、傷口を治す為と言うよりは、

傷口からの細菌感染を防ぐための治療だったのだそうです。

 

傷そのものを癒すわけではないのに、

これをなぜ「治療」と呼んで来たのかは、

今となっては理解に苦しむところです。

 

一方、傷口から出る漿液に注目し、

そこに含まれる細胞の再生を促す物質の力を上手く生かすことで、

「傷そのものを治す」ための治療法として考え出されたのが

湿潤治療です。

 

私の場合はクレラップを使うという手前療法なのですが、

傷の手当てはいつも湿潤治療を念頭において行っていますので、

その実力の凄さはわが身を持って実感している所です。

 

先日も、石につまづいて転んだ際に手指を石の角で打ち、

小さい範囲ではありますが肉がえぐれてしまいました。

出血も大げさにありました。

 

傷口には小粒の石が入っていましたが、

無理に取ると痛そうなのでそれはそのまま、

流水で汚れを流しました。

 

精油や植物性油脂を混合したクリームをクレラップに塗り、

クレラップごと傷口にペタリ。

様子を見ながら必要に応じて張替えをします。

 

翌日にはすぐに、傷口周辺の組織が

十分な湿り気によってぐちゃぐちゃになりました。

 

出血は止まっています。

傷口の小さな石も自ずと浮き出て、取れました。

 

ぐちゃぐちゃと書くとあまり良い印象ではありませんが、

実はこれは変化として悪いものではないのです。

 

細胞や組織には、今まで整然と配置されていた

その配置の構造があります。

 

この変化は、一旦その枠組みを解き、

必要な所へ組織や細胞を再配するための

準備だと受け取ることが出来ます。

 

翌々日あたりには、

裂けてしまった皮膚の間に早くも肉が盛り上がり始め、

早くもえぐれていたのが分からなくなりました。

 

…と、この様な感じで、

非常に治癒の過程が早く進み、

しかも傷口そのものもかなりきれいに解消されます。

 

トカゲの尻尾に負けない!? 驚きの指の再生劇!

 

12月11日、

たまたま目にした「ニュースの巨人」に、

湿潤療法の提唱者である夏井睦(まこと)氏が出演されていました。

 

番組の中では、

事故で親指の先を無くしてしまった人が、

湿潤療法で指を取り戻した症例を紹介していました。

 

写真でケガの回復状況を記録していて、

それを何枚か見せてくれたのですが、

最初の状態は、見るも無残です。

 

爪根を残してはいるものの、

親指の第1関節のほぼ半分から上が飛び、

ギザギザの痛々しい切り口が真っ赤に染まっています。

 

それが60日程の間に、

爪と共に指の肉が隆起し、

見事に指として復活して行くのがはっきりと見て取れます。

 

155日後には、

指先が無かったなんてイメージも浮かばないくらい、

普通の指です。

 

これを学会などで見せると、

会場にどよめきが起こると夏井氏は話していました。

 

夏井氏は講演会などで用いるためのスライドを

公開していらっしゃいますので、

そこから当該症例の写真を引用させて頂きますと…。

 

湿潤療法①

なかなかの凄まじさを見せる怪我ですが、確かに

へぇぇ~、こうもきれいに再生するの~!?

と誰しもが驚くべき、見事な治癒過程を示しています。

 

(当初、参考映像として

沖縄徳洲会病院での夏井氏の講演会のYoutube動画

【https://www.youtube.com/watch?v=0WtEpFnuj84】

をリンクしていましたが、

上記のリンク先が削除されたため画像のリンクはしていません。

 

ご興味のある方は、

Youtubeに夏井氏のお話が沢山アップされているようですので、

探してみて下さい。)

 

 

この映像を見た時には、

すごい!という興奮と共に、

やっぱり~、そうだと思った~!

と言う思いが浮かびました。

 

身体の能力は私たちが知っている程度のものじゃない、

果てしない可能性を持っているものだ、

と自分の中では確信していたものを、

やっぱりそうなんだと強く再確認させてもらった感じがしました。

 

人間の身体は

トカゲの様に再生する事はない、

そう私たちは教えられてきました。

 

でも実際には、

身体の力を本当に上手に引き出して

身体の意図に沿ってその力を用いることが出来れば、

ちゃんと再生だってするんですね。

 

思い込みを手放し、真摯に現象と向き合う

 

ちなみに先ほど参考として挙げたURLの映像には、

一旦は黒く壊死する所まで行ってしまった大きな傷が、

湿潤療法で復活する症例もあります。

 

ソバ打ち機に手を挟んで指先が飛んだ症例です。

縫合して縫い合わせたものの、

縫い合わせた指先が乾燥して黒く壊死した状態でした。

 

縫合部分には感染が起き、

それが骨髄に達する恐れがあるため

指を根元から切断しなくてはいけない、とまで言われたそうです。

 

切断を回避できる方法を探して、

湿潤療法を始めたのは受傷から11日後。

 

それだけ時間が経っていたら

ダメだろうと諦めてしまいそうですが、

そこから黒色壊死が溶解して白い壊死に変わり(!)、

指が再生して行きます。

 

壊死した指先に付いていた爪も新生します。

 

えぐいのは苦手…と言う方もいらっしゃいますよね。

ごめんなさい。

でも、こちらの症例の画像もありましたので、

引用させて頂きますと…。

 

湿潤療法②

こうなると、「壊死」などの言葉自体にも

問題がある気がして来ます。

 

「死」と言われてしまうと、もう再生する見込みのないもの、

と断定されているように感じてしまいますから。

 

私たちは、

普段何気なく使い、耳にしている言葉や表現によっても、

かなり認識を左右されている事が分かります。

 

そして、それは必ずしも真実でないばかりか、

むしろ異なる可能性を探すための

思考の柔軟性を削ぐ危険性のあるものだという事に

気付く必要がありそうです。

 

自然の中で生じる現象には、

どんな小さな事柄にも必ず意味があります。

…と、これは私が馬と仕事をしていた時に、

馬から教わったことの一つなのですが。

 

例えば今回の話の中で考えるなら

傷口にジュクジュクと出て来る漿液ですね。

 

ジュクジュクとして汚く感じたりするからなのでしょうか、

私たちはそこに大きな意味がある事を

今まで見落として来たわけです。

 

こうした見過ごしは、多分

数えきれない程あるのだろうと思います。

 

目の前にある小さな現象や事物をよく観察して、

その背後にある意味や理由を理解する。

自分の都合や脈絡で考えるのではなく、

自然の摂理に即して、です。

 

それを本当に丁寧に行っていくことが出来れば、

今までの私たちの視野の中では見えなかった

自然や身体の驚くべき大きな可能性に

出会うことが出来るのだろうと思います。

 

そうやって気付いたことが、今度は

私達一人一人が本来の自然や身体の在り方と繋がり直すことを

可能にしてくれるのだろうと思うのです。