症状には、隠された繋がりがある。〜喉頭と心臓の症例から

 

 

身体に現れる症状は、恐らくは全て、
お互いにつながりを持っています。

 

身体は、重要な問題を奥へ奥へと
隠す傾向があります。

 

これは、私たちの活動を支える為に
身体が均衡と秩序を維持しようとする、
涙ぐましい努力であり、工夫です。

 

ですが、その工夫によって、
症状同士のつながりは複雑化し、
関係性が見えにくくなります。これは時に、
症状の治癒を難しくさせるものにもなります。

 

今回は症例を紐解きながら、
施術を通して身体の情報を整理する事で、
症状のつながりも整理されていく様子を
お話してみたいと思います。

 

 

死の危険を持つノドの痛み

 

先日、Mさんが
4か月ぶりに施術にいらっしゃいました。

 

この夏はただでさえ酷い暑さで大変でしたが、
その真っ只中の8月に
家のリフォームをしていたそうです。
まぁ~…とにもかくにも大変だったようです。

 

9月に入ってまもなく、
Mさんは食事中に、
急な喉の痛みを感じました。
ものを飲み込むと痛みが起き、
おさまる様子はありません。

 

医者に行くと風邪と言われましたが、
出された薬では
痛みは治まりませんでした。

 

翌日は違う病院に行くと、
今度は「喉頭浮腫」と診断されたそうです。

 

喉頭浮腫では、
のどぼとけの辺りで粘膜が腫れます。
その為、ひどい場合には
窒息することもあるそうです。

Gray954-気管 

Gray954-気管(Public Domain)

 

気道を塞いでしまう程の大きさになる前に
早い段階で腫れを見つけて
処置出来る事がとても重要なんですね。

 

Mさんは自分で「おかしい」と気づいて、
すぐに診察を受けるという行動に移したことで
大事に至らずに済みました。

 

それでも、医者の診断が下るとすぐに、
1週間ほど入院することになったのだそうです。

 

 

どんな症状でも、全身を整える。

 

neMu no ki に来院された時には、
喉頭浮腫についてはすでに治まっていました。

 

退院してから1か月ほど経過していましたが、
この間に、実に様々な形で体調が崩れたそうです。
左の臀部には、治りかけの帯状疱疹もありました。

 

 

身体は、複雑な状況にありそうです。
ですがどんな症状が出ていたとしても、
施術では全身のバランスを整えて行きます。

 

バランスを整える事は、ある意味
身体に蓄積されて複雑化してしまった情報を
整理することでもあります。

 

施術は便宜的に、
背面の下半身から始めて行きます。

 

まず、骨格や筋肉の状態を細かく調べ、
構造の安定性を乱すポイントを特定して行きます。

 

背面の下半身では、
ポイントは左臀部の上の方にありました。
ここは、治りかけの帯状疱疹の場所とほぼ同じです。

 

帯状疱疹のところから出発して、
アプローチ箇所は徐々に移動して行きます。

 

移動しながら、
左坐骨と尾骨の隙間に生じていた緊張や、
仙骨稜の奥の方にある
塊のような感触のものを解いて行きます。

 

腰椎3番と尾骨へアプローチした時には、
この2点間の奥の方で、上下に伸びる感触が生じました。
伸びたのは、腰椎から仙骨の内側面に張っている
筋肉を包む膜だっただろうと思います。

 

これに伴って、
後方に張り出していた仙骨が少し平らになり、
仙骨に反比例して強く反っていた腰椎もまた
少し平らになりました。

 

つまり、強い曲線を描いていた
腰~仙骨・尾骨にかけてのアウトラインが
なだらかになったわけです。

 

これは、脊椎に常時かかっていた物理的な負荷が
軽減したことを示します。
その証拠に、強く丸みを帯びていた背部も、
力が抜けて楽になったように見えました。

 

この様な具合に、
背面の下半身の他に

 

背面上半身と頭部、
前面の頭部と頚部、
前面の体幹と上下肢

 

という3つのパートについても
それぞれ丁寧に調べて、施術して行きます。

 

でもデスネ~…(;・∀・)
施術の全てを詳細に書いていると
えらく長い文章になるので
(書いている私も辛い~( ;∀;))
中間部分については手短かにしますね!

 

背面の上半身では、
後頚部~両肩にかけての領域が
アプローチの中心でした。

 

結論だけを言うと、
左側頚部を上下に引き伸ばすような変化が生じて
頚~肩にあった左右差が軽減しました。

 

前面での頭部・ノドの領域では、
主に左右の眉と、
右目頭、左瞳孔へのアプローチでした。

 

右眉根に形成されていたしこりを解き、
微妙に右に寄っていた鼻根が
中央に戻る変化が生じました。

 

 

身体に蓄積した、要らない情報の整理

 

一度の施術で直接アプローチするのは、
最大で4か所です。

 

全身をみる際の効率的な理由から、
身体を4つの領域に分け、それぞれの中で
構造の調和を崩す力を生み出している所へと
アプローチする為です。

 

1回の施術の中でアプローチする部位は、
互いに関連し合っています。

 

身体が今手放したいと望んでいる
歪みや緊張を実際に開放するためには、
段階を追って身体の側の準備を
進めていく必要があったりします。

 

4か所へアプローチして行く間に、
身体の中では蓄積していた緊張が解けて行きます。

 

緊張とは、いわば
「力の網」の様になものです。

 

日常生活の中で出来た緊張や
捻挫でケガした時の緊張や…。
様々なものが網の目で結びつき、
複雑に入り組み合って行きます。

 

施術は、そうして複雑に絡まりながら
知らぬ間に身体に蓄積した情報を
整理して行くものです。

 

解放されていく緊張は、
かつては必要だったけれど、
今のその身体にとっては不要な情報と言えます。

 

不要な情報が整理されると、
その奥からは本当に改善すべき事柄が見えてきます。
症状の奥にあったものは本当は何だったのか、
それが見え易くなります。

 

 

目に見える現象から、原因を読み解く。

 

Mさんの施術で最後にアプローチしたのは、
心臓でした。

 

アプローチを開始した地点は左肺の先端近く、
東洋医学の概念を借りるなら
経穴で言う中府の辺りです。

 

 

十四経発揮図譜~肺経-4

 

Mさんはかなり厚みのある胸郭をしています。
胸郭と言う容れ物だけが
膨らんでしまっている印象を受けます。

 

また、胸郭の下縁にあたる肋骨弓も、
とても高い位置にあります。

 

つまり、横隔膜が常に上の位置にあり、
肺もまた呼気の時のように
常に収縮した状態にあることが想像できます。

 

胸郭内の圧力の高さが、
胸郭という容れ物全体を内側から強く押し、
前後に膨らませているのでしょう。

 

こんな風に予測を立ててみましたが、
本当は違うかも知れません。

 

実際はどうなのでしょう?
今現在の呼吸の様子を
丁寧に観察します。

 

鼻での呼吸のタイミングと、
横隔膜、右肺の動きは合っています。

 

左肺はと言うと、
タイミングが遅れています。

 

息を吸うと、
横隔膜の方から肺の上の方へ
波のような動きが生じます。

 

波が左肺の中央付近に来ると、
少しもたつくように見えます。
息を吐き出す時も、同じように遅れます。

 

中府から始まったアプローチは、
左の縦隔(肺の内縁)を辿り、
左の横隔膜へ向かいました。
横隔膜に沿うようにアプローチが続きます。

 

横隔膜が弛んで来たのでしょう、
タイミングの遅かった左肺の動きが、
右肺と揃い始めました。

 

今度は、胸骨の下部にアプローチが集中し始めました。
横隔膜の中央部と胃に当たる部位で、
経穴では中庭、鳩尾(みぞおち)です。

 

十四経発揮図譜~任脈-3

 

Mさんの呼吸は深くなり、吸気の際に
胃の辺りも膨らむようになりました。
横隔膜がしっかり下まで
下がる様になった証拠です。

 

Mさんの呼吸に合わせて、
胸郭全体が同期するように
大きく動き始めました。

 

 

重要な問題は、奥に隠されている。

 

施術のアプローチは、
胃の方から心臓の上の方へと
移動します。
経穴で言うと、玉堂。

 

ぐっすり眠っているMさんの呼吸を
更に見守りながらいると、
おかしな現象が起き始めました。

 

呼吸の途中で一旦胸郭の動きが止まり、
それに伴っていびきの様な音が
一回だけ起きます。

 

よくよく観察してみると、
4~5回ほど呼吸を行う内に
心臓を起点にして肺の動きが止まります。

 

心臓が肺の動きについていけなくなる様で、
途中でリズムが逆になるような印象です。

 

それに伴って肺の動きが乱れ出し、
ついには胸郭全体の動きが
ピタッと止まりました。

 

止まったのは一瞬のことでした。
呼吸が止まった苦しさからでしょう、
すぐに大きないびきの様な音と共に
ごおっと空気が一気に吸い込まれ、
再び正常なリズムで呼吸が始まりました。

 

4~5回の呼吸を経ると、
やはり同じように停止→いびきとなります。
規則的なサイクルを持って
生じている現象だということが分かりました。

 

アプローチは
玉堂から鳩尾(みぞおち)へ向かいます。
心臓の表面を伸ばして行くような動きです。
そこから左中府(肺の先端)へ。
これは、心臓を左上の方へ引き上げるような動き。

 

再び玉堂へ戻り、しばらく待っていると、
その奥の方で
心臓の緊張がフッと抜ける感触が生じました。

 

呼吸を観察すると、
心臓が途中でぎゅっとなって
呼吸が止まる現象がおさまった様でした。

 

玉堂の位置からして、
緊張が生じていたのはもしかしたら
心臓の弁だったのかも知れません。

 

吸気の際には、
胸郭の陰圧が増します。
この時、肺に流入する空気量が
増えるのはもちろんですが、
心臓内に流入する血流量も増えるそうなんですね。

 

つまり、吸気の時には
心拍数も少し上がることになります。

 

リズムの変動について行くには、
器官の機能の柔軟性が必要です。

 

心臓の弁とは限らずとも、
心臓のどこかに緊張があると、
そうした柔軟な変化に対応するのは
難しいだろうな…と
想像がつきませんか?

 

 

施術で生じた変化によって、すぐに、
Mさんの心臓の状態が
日常においても安定的になる訳では
ないかも知れません。

 

ですが、Mさんの身体の中で
何かが良い方向に動き始めたのは、
確かだろうと思います。

 

 

気遣いが裏目に…Mさんの意外な事情

 

私の感覚では、 今回
施術でアプローチしたのは心臓だと感じました。
ですがこれまで、Mさんから
心臓に対する不安を聞いたことはありませんでした。

 

本当に心臓だったのでしょうか?
Mさんに施術の詳細を説明する前に、
尋ねてみました。

 

「心臓は、普段
何か気になる様な事はありますか?」

 

Mさんは、
こんな風に話してくれました。

 

以前から、寝ている時に
心臓がぎゅ~っとなって、
苦しくて目が覚める事がありました。

 

病院で調べても、検査では
それらしいものは何も出なかったので、
特に治療などはしませんでした。

 

心電図には、一定の間隔で
ちょっと不整脈があったみたいなんですけど、
規則的だから問題ないですよと言われました。

 

医師からは、
痛みがひどい時には飲むようにと
念の為にニトロを渡されました。

 

実際に痛みが生じた時に飲んだんですけど、
全く効かなかったんです。
氷水をきゅ~っと飲むと、治まるんですよね。

 

 

…おそらくは、心臓の抱えていた緊張の影響で、
寝ている間に呼吸が乱れる傾向があった事を説明すると、

 

規則的な不整脈は、
このせいだったんですねぇ~。

 

今は、そう言えばいつもこの辺り
(心臓の左側を押さえて)にあった
違和感が消えて、
すっきりした感じがします。

 

そう言えば…。
8月のすごく暑い時に、
リフォームで家に作業の人が来てたんです。

 

外で作業してる人がいるのに
自分がクーラーに当たっているのは
申し訳ないって思って、
私も暑い中にいたんですよ。

 

今思うと、何も気にする必要なかったのに。
おかしいですよね~。

 

 

どうやら、アプローチしていたのは
心臓で間違いなさそうでした。

 

Mさんが喉頭浮腫で入院したのは、
9月に入ってまもなくです。

 

8月の中旬頃は、猛暑のピーク。
それからすぐの8月の末には、
急な冷え込みを体験しました。

 

クーラーをつけずに
猛暑の中にほぼ1週間、そこですでに
元々緊張を抱えていたMさんの心臓には、
強いストレスが掛かっていたことでしょう。

 

Mさんは、
自分でそれが気遣いだとも思わずに
普段から細やかな気遣いをされる方です。

 

ですが今回に限っては、それが裏目に出たと
言えるかも知れません。

 

猛暑から一転、気温の急激な低下が起きた事で、
心臓の疲労は更に強くなったことでしょう。
身体の循環機能が下がれば、抵抗力も落ちます。

 

 

喉頭浮腫と心臓の関係性(試論)

 

施術の流れをもう一度見てみると、
右肺や横隔膜から動きの遅れていた左肺が
そのリズムの調和を取り戻した後で、
心臓のリズムが狂う現象が表面化しています。

 

裏を返せば、それまでは
左肺の変調した動きによって、
心臓が持っていた緊張状態が
隠されていたと言う事です。

 

もう少し突っ込んで言えば、
左肺はもしかすると、

 

緊張を抱えた心臓の負担を軽くする為に、
心臓の許容範囲に合わせて、
ゆっくりした動きあるいは小さな動きを
していたのかも知れません。

 

喉は、囲心腔という空間で
心臓と同居しています。

 

また、脈管のつながりも
非常に近接しています。

 

Mさんの喉頭浮腫の症状は最初、
食べ物を呑み込むと
甲状軟骨の左奥の辺りに痛みが生じる
という状態から始まっています。

 

ここからは、あくまで
私の推察ではありますが。

 

心臓を(たぶん)庇って
ゆっくりになっていた左肺と、
免疫力低下で
腫れあがってしまった喉頭の左側と。

 

いずれも左側です。
何らかの相関関係があるだろうと
想像が働きます。

 

心臓に緊張があったなら、
おそらくはノドの血管にも
緊張は伝わっていたはずです。

 

緊張下の組織は、
炎症を起こしやすい状態でもあります。

 

Mさんの心臓には以前から変調があり、
それは左肺の動きを遅くさせることで
何とか弱さをカバーできていたけれど、

 

夏場の無理によって、その影響は
同じ空間を共有するノドの方へ広がり、
炎症性の腫れものとして姿を現した。

 

ノドの症状は唐突に現れたように見えますが、
おそらくは、長い時間の経過と
その間に身体に蓄積された緊張によって、
奥深くで 徐々に
その形が作られていったのではないでしょうか。