この症例の場合、
胎児であった自分の身体に
臍の緒が巻き付いていたことを、
クライアントさんはご家族から
「情報」として聞いて知っていました。
来院当初、
クライアントさんご自身には
胎児期の記憶はありませんでしたし、
そもそもの来院の理由も、
数年前に受けた外科手術の後遺症を
改善したいというもので、
臍帯巻絡とは関わりがありませんでした。
ですが、
施術で身体の変化が進むに伴って、
日常のふとした瞬間や夢の中で
当時の感覚が体感的によみがえり、
言わば臍帯巻絡の再体験が
起きるようになりました。
複数回にわたって生じた再体験から、
三重に絡んでいた臍の緒が
どの部位にどう絡んでいたかと言った
実際の具体的な側面が見えて来ました。
ここでもう一つ、
非常に興味深いことが
起きるようになりました。
施術の始めに行う聴き取りで、
例えばクライアントさんが
「首の後ろに
大きな綱みたいなものが
乗っている感覚が現れて…」
と再体験の感覚を説明した時には、
その感覚を裏打ちしつつ、
どんな理由でそれが生じたかを
明示するような「力のつながり」が、
施術の中で必ず現れるようになりました。
これはつまり、
クライアントさんの再体験だけでは
「そうであった可能性が高い」
という情報に留まっていたものが、
身体を通して現れる「力のつながり」
=「過去の体験の記録」によって
具体的な形で裏付けされて、
確実性と信頼性が高い情報であると
確認するための作業が、
身体自身によって
行われるようになったわけです。
当初は「臍帯巻絡」と言っても
その実態が抜け落ちていた
過去の出来事は、
クライアントさんの中で
実感を伴う、生きた体験に
変わって行きました。
過去の体験は、
すでに終わって停止した
「抜け殻」のようなものでは決してなく、
現在に至るまでの自分の生き方や
生きることそのものと
有機的に密につながっていて、
今もなお「生きた一部」として
自分を構成し、
自分の中に生き生きと
息づいている。
この症例は、
それを体感的に理解する
道程でもありました。
ちなみに、
この症例のように
記憶のなかった出来事を
再体験によって思い出すことは
比較的稀かな…とは思いますが、
過去の出来事や体験について
はっきり記憶がない…
というクライアントさんであっても、
現在の不調や不具合の
原因と思しき姿勢や動作、あるいは
過去の出来事について説明すると、
「あ〜、なんとなく分かる気がする」とか
「そうだ!確かにそうでした!」
といった言葉がたいてい返って来ます。
これはどういうことかと言えば、
たとえ顕在意識では覚えていなくても、
身体自身がその時の出来事・体験を
正確に「記録」(記憶ではなく)
しているため、
それに一致するような説明を聞いた時には、
思い出すことはできなくても、
何となく合っていて「そうかも!」という
体感的な納得が起きるわけです。
この文章を読んでいて、
興味はあるけど過去の記憶は何もないし
施術を受けても大丈夫なのかなぁ、
なんて心配をされている方がいるとしたら、
ちゃんと必要な情報は
身体自身が保持していますし、
実はそれを能動的に示す力も
身体は持っています。
心配はご無用ですよ!