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筋膜から見た、馬体の力学的構造の特殊性:空間と構造 ~2月の営業予定

 

2016年になって、やっと

初めての記事をお届けできます~!(*’▽’)

 

大変たいへん遅くなりましたが、

みなさま、本年も

どうぞよろしくお願い致します!!

 

 

既に過去のことかも知れませんが(;^ω^)

新しい年の幕開け、

みなさんはどの様に過ごされていましたか?

 

お正月二日目、私は依頼を頂いて

ポニーに施術をしに行って参りました!

 

場所は、neMu no ki と同じ

国立市にある可愛い厩舎、

「馬飼舎」(まかいしゃ)です。

http://jack-dandy.cocolog-nifty.com/

 

元々は日野市の浅川沿いの

公園で暮らしていたポニー達でしたが、

諸事情があって一昨年、国立市の中でも

自然と清流が豊かに残る谷保地区に

引っ越して来ました。

 

 

私も地元は日野です。

まだポニー達が川沿いに居た頃、

休日のジョギング中に

厩務員さんとお話をしたのが

そもそものご縁の始まりでした。

 

奇しくも引っ越し先も国立市とあって、

勝手に深いご縁があるものと感じて

心の中でいつも応援しているポニー達です。

 

 

そのポニーくん達から

施術をお願いしたいと依頼を受けたのは、

昨年の年の瀬のこと。

 

2頭のポニーの内、

公共の施設(幼稚園などの)で

子供たちを乗せる役目を担っているポニーが、

いつもと違う挙動をするようになったと、

ご連絡を受けました。

 

びっこを引いているとか、

お腹を痛がると言った様な症状だったら、

装蹄師や獣医に依頼するところです。

 

でも、そういうはっきりした感じではない。

はっきりはしないけど、やっぱり何かおかしい。

 

10年以上も一緒にいて、ポニー達と

仕事をしている厩務員さん達には、

看過できない重要な兆しに感じられたのでしょう。

 

どうやら全体の

バランスの問題ではないのか?

そう感じた部分があって、

連絡を下さったとのことでした。

 

 

年始の暖かく穏やかな陽射しの中、

2頭のポニーへの施術を行いました。

 

その時の体験について、厩務員さんは

「richな時間だった」と

後に表現してくれました。

 

この時の詳細について、

今回から数回に分けて

ブログでご紹介しようと思っています。

 

書いている内に変わるかも知れませんが、

今の段階で書く予定をしている内容を

挙げてみますね。

(変わった際には、ご容赦ください!(^▽^;) )

 

 

1.          筋膜から見る、馬体の力学的構造の特殊性

2.          施術における馬体の構造の変化

3.          身体構造の安定化と心理的安定性

4.          施術から見えた、2頭のポニーの絶妙な関係性

5.          動物たちを見守る側の人間が持つべき意識-厩務員さん達から学ぶ

 

 

ちょっとゴツイ顔のテーマが並んでいて、

教科書か!?と画面に向かって

ツッコミを入れている方も

いるかも知れませんが(^▽^;)

 

少し吐露しますとですね、

この1か月間、この題材について

何度も書いては止め、を繰り返しました。

 

 

動物への施術と言うのは

言葉や思考が介在しません。

 

つまり、説明を通して

施術を思考の面から補う

ということは一切出来ず、

動物たちの反応や

現象として生じる変化で

すべてが決まるという、

シビアな一面を持ちます。

 

そうした真剣勝負の施術だからこそ、

その場の中で体験する事には

とても大きな意味が生まれると思います。

(人間の時だって、手抜きは一切ないですケドネ~!(;・∀・))

 

一部始終を見ていた

厩務員さん達に負けず劣らず、

私自身にとっても

ポニー達への施術は

とても意義深いものになりました。

 

ところがそれを

文章に書き起こす段になると、

重要な要素があり過ぎて、

まとめることが難しいんですね。

どれもこれも、削ることが出来ない。

 

色々と試行錯誤を重ねた結果、

その時の体験を時系列で追うよりも、

重要なテーマごとに記述した方が

文章が混乱しないで済むのではないか、

と考えた次第です。

 

 

と言う訳で、今回はまず、

2月の営業のお知らせをさせて頂いて、

「1.馬体の力学的構造の特殊性」について

お話して行きたいと思います。

 

 

 

2月の営業予定

 

1月については、

すっかり予定を

お知らせしそびれたまま、

終わりに近づいているので

ヨシとさせて頂きまして(;^人^)

 

2月は、臨時休業の予定はありません。

通常通りの営業となります。

 

開院時間 : 11時~20時

定休日 : 毎週水・日曜日(祝日も開院します。)

 

施術の最終受付は17:00とさせて頂いております。

ご事情のある場合には、17:30まで対応可能です。

ご相談くださいませ。

 

前日までにご予約のない時間帯に関しては、

臨時でお休みとなる場合があります。

ご予約の際には、なるべくお早めに

ご連絡を頂けますと幸いです。

 

 

 

筋膜から見る、馬体の力学的構造の特殊性

 

馬と取り組んだ日々

 

元日の夜、

翌日の施術に向けて

馬の身体構造についての

必要な予習をしておくことにしました。

 

根がのんびりしているので、

元日から勉強だなんて

初めてのことです。

 

 

私は、現在のように

ボディワークを仕事とする以前は、

馬事に携わっていました。

 

20代の6年半、

馬専門の牧場に住み込んで、

馬と一緒に起居する毎日を

送っていました。

 

私にとって馬は、猫や犬以上に

大変なじみの深い動物です。

 

 

勤めていた牧場では、

常時40頭近くの和種系の馬を

繋養していました。

 

馬の繁殖(種付けですヨ~、もちろん。)や、

飼育、調教、乗り方のインストラクション、

厩務作業、流鏑馬を含めた

日本の馬文化の研究など、

 

とにかく、馬に関わることは何でも

全部ひっくるめてやる、

少し変わり種の独創的な牧場でした。

 

 

牧場の馬達は、樹海や山の中を

お客さんを乗せて走ったり、

あるいはゆっくり安全に歩くのが仕事。

 

お客さんで来るのは、

必ずしも経験者ばかりではありません。

身体のバランスを

自分で保てない人間を乗せる事が

日常茶飯事です。

 

そうした人を乗せつつ、落ち着いて

安定的に動くことを求められる馬達の

身体には、負担がかかります。

故障が生じる事も度々ありました。

(経験者でも、バランスが取れている人はむしろ少ないのです。)

 

日々の負担の蓄積で

背中が歪んでしまっている馬や、

首がいつも片方に偏っていて

身体の真直性がなくなっている馬

などもいました。

 

そんな彼らに私がやれることは、

出来るだけ乗る時間を作って

彼らの身体の状態を感覚的に把握し、

バランスを整え直したり

馬の動きのリズムを整える作業を、

丁寧に行うことでした。

 

一生懸命にやっても、

運動によって改善できるのは、

緊張して固まってしまった所を

ほぐして、流れを回復することと、

リズミカルな動きの感覚を

馬に思い出してもらうこと位が

関の山。

 

身体を壊す根本的な原因のはずの、

構造の偏りや

ひずみ自体を取り除くことは

難しいというのが、

長い間の試行錯誤を経ての実感でした。

 

何が問題なのかを冷静に考えれば、

バランスの乱れた人間が

自覚なく馬に乗り続けることが

そもそも最も問題だと思えました。

 

かく言う私自身も、

身体に歪みがある事には

はっきりとした自覚があり、

何とか軸を整えるために

日々奮闘していました。

 

 

 

バランスを感受する馬の能力

 

馬は、乗り手のバランスに対して

どれだけ敏感なのでしょうか?

 

ここに、

それを体感させてくれた出来事が

2つあります。

 

 

1.おっとり図太い福ちゃん

 

福花は、木曽馬の中で

一番年長のメスでした。

 

以前ご紹介した

ブログ:「死の淵に立つ馬」の主人公、

木曽馬の岳が大好きだった馬です。

https://inemurino-ki.com/2014/03/23/horse_backtolife_1/

 

胴体は丸太の様に太く、

その太さのせいで

背中は幅広の真っ平ら。

普通は、背骨を中心にして

左右の背中には円を描くように

なだらかな傾斜があります。

 

でも、福ちゃんの場合は

むしろ背骨の両脇で

背肉が盛り上がっていました(;・∀・)

 

そのせいで、足もガニ股。

歩く時には、大儀そうに

身体を揺らしながら

ゆっくりゆっくり進みます。

 

当然ながらの、食いしん坊。

 

人間が小屋で談笑していると、

どしっどしっと音がして来て、

やがて黒い鼻面が

中をぬ~っと覗きます。

 

「何、内緒で

美味しいもの食べてるの~。」

とでも言いたげな表情です。

 

およそ馬らしい繊細さは、

感じられなかった福ちゃん。

…おほん、失礼(;^ω^)

 

 

ある時のこと。

福ちゃんの乗り運動をしようと、

ステップから福ちゃんの背中に

またがろうとしました。

地面から乗ると、

馬の身体への負担は大きいものです。

足を踏ん張って立っているのが

大変な馬の場合など、

状況によっては台を用います。

 

 

背中に腰をおろした瞬間、

私のお尻の下で、 福ちゃんの背中が

微妙にふいっと 動きました。

 

素早く、そして

ごくわずかな動きでした。

 

一瞬、あれ?と思いましたが、

その動きが何だったのか、

すぐにピンと来ました。

 

 

私の騎座(鞍に座るバランス)は、

中心がどうしても

少し左に寄りがちでした。

 

福ちゃんは、

そのバランスに丁度合う様に、

瞬間的に自分の背中の位置を

微調整したのです。

 

 

人間的な心情から行くと、

これは乗り手が安定し易いように

馬が配慮してくれたのかも!

と思いたい所ですが、

 

そこは福ちゃんですから、

まさかそんな殊勝なことは…(^▽^;)

 

恐らくは、そうする方が

福ちゃん自身にとって

楽だったのだろうと思います。

 

いずれにしても、

乗り手に合わせて、馬自身が

こんなにも工夫をしていたのかと、

申し訳なく感じると共に

驚きを覚えた出来事でした。

 

 

 

2.やんちゃ坊主の当麻

 

当麻は、

クリーム色の身体に

黒いたてがみを持つ、

アラブ馬と道産子の血が混ざった

やんちゃな馬でした。

 

馬は草食動物らしい敏感さを持ち、

遠くの方でおかしな音がしたり

妙な気配を感じると、

驚いて逃げ出したりすることがあります。

 

当麻は頭の良い馬で、

純血種なら

行き交う銃弾の中も走るという

勇敢なアラブ馬の血を

わずかながらも引いていたせいか、

 

本当は状況を理解しているのに、

わざと大袈裟に驚いてみて

面白がって逃げてみる…!

そんなケシカランところのある

馬でした(;・∀・)

 

そんなケシカラン感じが、

私は面白くて好きだったのですが。

 

 

その日、私は

自分でもそれまでになく

身体の軸が通っているのを

感じていました。

 

乗り運動のため、

当麻の背に乗りました。

 

私の騎座は

背中の真ん中にすんなりと、

気持ちよく安定して納まりました。

 

騎座がすっと納まると、

身体の軸に沿って頭まで

力が自然と伝わって行く

感じがしました。

 

その心地よい安定感を

ゆっくり味わう暇もなく、

当麻は急に

ぴょ~んと跳ね上がると、

一目散に駆け出しました。

 

 

それは

めちゃくちゃな走りようでした。

 

でも、

楽しくてしょうがないと言った様子が

伝わって来ます。

 

乗っている私も

何だか妙に楽しくなって来て、

制止も忘れて一緒に笑い出しました。

 

当麻とは、

何年もの付き合いでしたが、

そんな走り方をしたのは

それが最初で最後でした。

 

 

 

福ちゃんと当麻が

こうやって与えてくれた

貴重な体験は、

 

馬が思っている以上に

人間の身体の安定性を

敏感に感じ取っていること、

 

そして感じるだけでなく、

それを、身体を通して

馬達も共有してくれている

ということを、

教えてくれるものでした。

 

 

そして、

こうした体験によって、

 

人間の身体のバランスとは何か?

バランスが取れていると言うのは

一体どういう状態なのか?

 

私たちが

理解できている様に思っていて

実はちっとも理解できていない

こうしたベーシックな問いについて、

 

その根本から、きちんと

理解できるように学ばなくてはと

強く思うようになりました。

 

そしてそれが、

現在の道を歩むことへと

繋がって行きました。

 

 

 

身体構造の把握

 

人間の身体の構造について

理解が深まり、

 

身体の構造のひずみや偏りも

やり方によっては

改善に導く事が出来るのだと、

理論的にも経験的にも

確かに信頼できる様になった今、

 

立会人のいる中で

再び馬の身体と向き合う

機会を与えて頂いたことは、

私自身にとって心躍る出来事でした。

 

 

言うならば、今回は

ポニー達への施術を通して

私自身がお世話になって来た

馬達へ行う恩返しであり、

 

かつては手の届かなかった

馬体の構造の歪みへの

時を経たリベンジです。

 

予習だって、

思わず身が入ります。

 

 

施術を行うには、

馬体の構造の特色を

掴んでおく必要があります。

 

人間の場合は、

二足歩行です。

 

二足歩行を支える要は

大きく特殊に発達した骨盤にあり、

 

骨盤と言う、空間を内包する器の

状態を決定づける殿筋や腹壁と、

さらに腹腔に納まっている臓器などは、

 

いわば身体全体のバランスの

基盤として、とても重要です。

 

(実際には、ここに

横隔膜や股関節なんかも入って来て、

全身のつながりに発展して行きます。)

 

そこから、骨盤を土台にして

垂直方向に身体が展開することを

可能にさせている脊柱と、

 

脊柱の状態を大きく左右する、

独立した空間構造を抱える

胸郭や喉頭、顔面頭蓋…

 

人間の身体構造については、

こんな具合に理解しながら

施術を行っています。

 

 

これは、どこが最も重要かと

優劣をつけることとは違います。

 

どこの部分も

他の所とは替えようのない

重要な役割を持ちます。

 

一部で起きた変化は、

即全体に波及しますし、

逆に一部が働かない時には

全身でカバーします。

 

働かない一部に

取って替われるものはなく、

出来るのは全身を挙げての

工夫です。

 

どの部分も本当は 同じ様に重要です。

 

 

施術の目的は、

身体が本来の自然なバランスを

回復して行くことです。

その為には、構造全体の歪みを

把握する必要があります。

 

全体の歪みのイメージを掴むには、

どこをどう調べれば良いのか?

それを自分なりに

整理しておくことが肝心です。

 

 

本棚から

『家畜比較解剖図説』を

引っ張り出しました。

 

改めて馬体を眺めてみると、

何と効率的に

背中で重さが支えられるように

なっているんだ!と

思わず感心するばかりです。

 

(※ここから先のお話は、

数理的なデータや学説、

科学理論に基づくものではありません。

 

生きた身体が

施術によって変化して行く、

その過程の観察を積み重ねる内には、

「構造」というものを

感覚的に把握するようになって行きます。

鼻が利くようになる感じです。

 

そうした感覚に基づいて、

展開して行く考察です。)

 

 

 

空間と圧力

 

脊柱は、

人間の場合は「支柱」ですが、

馬の場合は

身体の一番上に位置する「梁」です。

 

その梁の下側には、

肋骨と胸骨で囲まれた

大きな空間構造があります。

 

この空間の中には、

沢山の臓器が納まっています。

 

図引用:『家畜比較解剖学 上巻』

馬の腹部臓器

(図引用:『家畜比較解剖図説 上巻』

加藤嘉太郎/養賢堂出版 上図はp.7  下図はp.243)

 

 

一見すると、

梁の下に籠がぶら下がり、

それが肢(あし)によって、一まとめに

持ち上げられているようにも

見えます。

 

ですがもし、肢が全てを

持ち上げているのだとしたら、

果たして馬は

あんなに速く動けるでしょうか?

 

一体何が、身体を

支えているのでしょう?

 

 

もちろん、筋肉も

支える力の重要な要素です。

力まずにきちんと機能している筋肉は、

身体が軽々と動くことを可能にします。

 

他にも、

見えにくいけれども

重要な要素があります。

それが、「空間」です。

 

 

空間は、その内側に

封じられた圧力を持ちます。

 

空間の内圧は

構造を外へと広げる力であり、

 

体内の内部構造に対しては

外から締め付ける力となる筋肉と拮抗し、

体内の空間的な広がりを

維持する力でもあります。

 

それは、厳密には

「支える」だけではなく、

身体の重さやその感覚を

変化させ得るものです。

 

構造は、

力の凝集によって重みを増します。

例えば筋肉に関して言えば、

その収縮は身体を支えていると同時に

身体を重くするものでもあります。

 

一方、空間とその内圧は、

そうした凝集する力に拮抗し、

分散させることで、

構造の重み自体を軽減させます。

 

胸郭の内圧を保持するのは

腹膜や胸膜、それぞれの

臓器を包む膜などの膜組織が

役割を担っています。

 

 

馬体の力学

 

馬の肋骨は18本あり、

人間に比べると

かなり腰に近い方まで

肋骨にしっかりと覆われています。

 

肋骨と肋軟骨、それに

胸骨と胸椎で形成された

鳥かごの様な骨格を胸郭と呼びます。

(ちなみに、馬は胸椎も18個あります。)

 

胸郭の前方部分は、

心臓と肺のある胸腔、

横隔膜を挟んだ後方部分は

消化器系や泌尿・生殖器のある

腹腔です。

 

肋骨の前方の8本は、

胸骨と直に接合しています。

肋骨の後方の10本は、

肋骨と胸骨の間に肋軟骨があります。

 

図を眺めている内に、

線を引っ張って見たくなりました。

 

馬体の構造のノート (2)

 

私の絵だと、馬体のバランスが

ちょっとアヤシイので(^▽^;)

ちゃんとした図を使って

改めて線を描き入れてみます。

 

馬体の力学線

(図:『家畜比較解剖図説 上巻』p.7 より引用の図版に、著者が加筆して作成したもの。)

 

一番上の青い線は、

首の根元(頸椎7番)から脊柱の下縁をとおり、

仙骨の後端までを示しています。

これが、いわば「梁」です。

 

 

緑のラインは、肩関節から始まり

18本の肋骨の下端を結んでいき、

(つまり、前方8本の肋骨‐胸骨の接合部と

後方10本の肋骨‐肋軟骨の接合部。)

寛骨の寛結節まで伸びます。

 

寛結節と言うのは、

人間でいう所の「こしぼね」に当たります。

解剖学的には前上腸骨棘と呼ばれています。

 

 

ピンクの線は

肘頭から始まって胸郭の下縁を通り、

緑の線と同じく寛結節へ。

 

肘頭と言うのは、私たちが

一般的に「ひじ」と呼んでいる所で、

関節の後ろの突出部にあたります。

 

一番下のオレンジのラインは、

体壁の表面を示します。

ラインの後端にあるのは恥骨結合です。

これは私たち人間と同じですね。

 

馬の骨盤のノート 馬の骨盤骨格ー寛骨

 

これらの線が示しているのは、

胸郭と腹腔を上へ持ち上げる

力の構造です。

 

まず 身体の後方(後躯と言います。)では、

真ん中の2つのラインが

寛結節で交差しています。

 

馬の駆動力は後肢にあります。

胴体の重さは2つの力の流れによって

寛骨の先端部に一旦全部集められ、

 

今度はそれが寛骨の傾斜を下って、

後肢を前へと駆動する力に

変わって行きます。

 

馬の寛骨の滑車構造

 

次に、

一つ一つのラインの特徴も

見てみましょう。

 

 

1.青のライン

 

梁である脊柱は、

最も重たい首と頭のその基部である

第7頸椎と同じ高さにあります。

 

もし、長い首の、

その根元が沈んでいると、

首は立ち上がりにくくなり、

頑張って持ち上げる必要が

出てきます。

 

今度は逆に、首の根元の方が

梁よりも上にあると、

首の重さがまともに肩に乗り、

肩はそれを支持するので精一杯で

身動きが取れなくなります。

 

つまり、梁と首の根元が

同じ高さにある事で、

互いの機能や構造にとって

効率的だと分かります。

 

 

2.緑のライン

 

肋骨と胸骨、あるいは

肋骨と肋軟骨の接合部では、

外からの力の伝導やエネルギーの

流れが変化します。

 

そこを結んでいくと、

前方では肩関節、

後方では寛結節に繋がる。

 

 

肩関節には、

前方へと向かう力が内在します。

 

馬体の関節内の力の方向性

 

一方の寛結節には、

前から来た力を後肢に送り込む、

滑車のような働きがあります。

 

前後端で、互いに

逆方向に引っ張り合う様に働くことで、

緑のラインは胸郭全体を

上へ持ち上げる力となります。

 

 

3.ピンクのライン

 

10本ある肋軟骨は、

胸郭の下部を包み込むように

後ろから前へ向かって斜走します。

 

ピンクのラインはその下縁を通り、

胸郭内部の空間を下から支えます。

 

 

ライン前端の肘頭には

後方へ押す力が内在し、

内部空間の圧力を腰の方へと

押し上げる作用を生じます。

 

これは、身体の前方の重みを

より効率的に後方へ送ることを

助けていると考えられます。

 

胸郭の下縁が

もし肘頭よりも下にあったら、

胸郭の重みによって

前肢の動きは制限されます。

そうしたバランスを

元々持っているのが、牛です。

 

 

緑とピンクに

体壁のオレンジを含め、

3本の線によって

上へ押し上げられると、

 

胸郭の内部では

圧力が円形の肋骨を辿って

脊柱を押し上げる力となります。

 

 

 

合理的な空間構造

 

さらに胸郭の中を覗いてみると、

面白い構造が見えてきます。

 

ここまででだいぶ長くなっているので、

軽く説明しますね(;^人^)

 

 

頭を支える横隔膜

 

胸郭の前方3分の1ほどの所に

横隔膜があります。

 

横隔膜は、 胸郭を

胸腔と腹腔に分けています。

位置はこんな感じです。

 

馬の横隔膜

(図:『中国獣医鍼灸図譜 日本語版』p.72 より引用の図版に、著者が加筆して作成したもの。)

 

人間はほぼ水平位にありますが、

馬は垂直ではなく、かなり斜行しています。

 

よく見るとこの角度、

首とほぼ垂直の関係にあります。

 

馬/横隔膜-頭頚の直角

(図:『中国獣医鍼灸図譜』p.72より引用の図版に、著者が加筆して作成したもの。)

 

人間の場合、頭頚部の重さは

出来るだけ上部の方で支えて、

足を身体の重さから解放して

出来るだけ自由に動かせるように、

 

体内を幾つもの空間に区切って、

圧力を維持しています。

 

そうした仕切りを上から挙げると、

口腔底、

胸郭上口、

横隔膜、

骨盤底、

と言った辺りです。

 

首と直角を成す馬の横隔膜も、

胸腔内の圧力によって

頭頚部の重さを支えるには

最も効率的な位置関係だと思われます。

 

 

さらに胸腔の中を見ると、

縦方向に3つの空間に分かれています。

 

馬の胸内空間

(図:『家畜比較解剖図説 下巻』p.333より引用の図版に、著者が加筆したもの。)

 

仮に、

前上方から来る頭頚部の重さを

一つの空間で背負うと、

肩にもどっしりと重みが乗ります。

 

これを、縦割りの 左・中央・右の

異なる空間で負重することで、

左右の肩と、心臓にかかる負担を

それぞれ軽減する事が出来ます。

 

 

動きに適した腹腔

 

胸腔が縦割りなら、面白い事に

腹腔内は横割りの構造です。

 

馬の腹内空間

(図:『家畜比較解剖図説 上巻』 p.203より引用の図版に、著者が加筆したもの。)

 

後肢は、大きな駆動性を持ちます。

それを受け止める腹腔の

内部空間がもし左右に分かれていると、

 

後肢の運びに応じて

お腹はその内側から左右に揺れ、

身体の動きはバラバラになります。

 

そのため、

腹腔内は空間を水平に分割し、

左右が均質の空間である方が

理に適っていると考えられます。

 

(ちなみに人間は、腹腔の奥に後腹壁があり、

腹腔内は前後2つの空間に区切られています。

馬はおおよそ3つの空間ですが、 基本形は同じです。)

 

 

構造を空間に変える、筋膜

 

 

ふぅぅ~(^▽^;) さてさて、

馬体の構造の特性について

何とか整理が出来ました!

 

 

一本一本バラバラの肋骨も、

その内側に張っている

胸膜や腹膜などによって

互いに結び付けられ、

全体性へと還元されます。

 

大きな胸郭という空間は、

胸膜や腹膜などを介して

より機能的な空間に分けられ、

その中で各臓器は、

秩序ある形で配置されています。

 

胸膜や腹膜、 臓器を包む

膜や腸間膜などは、

膜様の結合組織であり、

全て併せて広義の筋膜と

捉えることが出来ます。

 

 

これらの膜によって

結び付けられ、

体内に生み出される作用を

観察する時、

 

そこに現れて来る身体は

もはや確固たる形を持つ

構造体ではなく、

 

空間を媒介として

協働して力の作用を生み出す、

いわば空間体なのです。

 

 

さぁ次は、

実際の施術に入って行きますよ~!ヽ(^。^)ノ