臨床より:顎関節の痛み②~頸椎と顎関節の関係性/メカニズムの解説

前回からの続き。
今回は、少し専門的なお話。

長い間、口を大きく開けると
顎関節に痛みのあったAさん。

顎関節を内側から押しだすような力があって、
関節の接合がずれていたことが
痛みの直接の原因でしたが、

さらにそのズレは、後頭骨と頸椎1番の間が
緊張で固まっていたことが原因となって
生じていたのが分かりました。

今回は、このメカニズムを
細かく解説してみます。

頸椎1番は、後頭骨に接合しています。
この接合部、後頭骨ではあるのですが、
蝶形骨とも言える部分。
(後頭骨と癒合している所なのです。)

蝶形骨は、羽を広げた
アゲハ蝶のような形の骨です。

私達の目の上にあって、
脳みそを背中の上に乗せる形で
滑空している蝶です。

頭の中に蝶がいるなんて、
ちょっとファンタジーですよね~^^
え?コワい?^^;

広げた蝶の羽は、
その先端部がこめかみを形成しています。
蝶形骨に外側から触れられるのは、
こめかみだけ。
それだけ大事に
身体にしまわれてるんです。

脳みそを乗せ、
更に眼窩の天井でもある。
そんな蝶形骨が不安定だと、
めまいや立ちくらみ、あるいは頭痛など
色々な症状が生じたりします。

後頭骨と頸椎1番の間(以降、環椎後頭関節)が
強い緊張で固められていたのは、
首から下の身体全体にヒズミがあって、
そこから蝶形骨の安定性を守るため
だったのではないかな…と、
これは私の想像ですが。

アゲハ蝶の羽の一番下の部分を
尾状突起と呼ぶそうですが、
面白いことに
蝶形骨にも同じように突起があり、
翼状突起と呼ばれます。

この突起からアゴの角にかけて、
筋肉が張っています。
もちろん、顔の骨格の内側の話です。

この筋肉は、内側翼状筋と言います。
顎を閉じて、ものを噛む働きをします。

さて、Aさんの場合、
環椎後頭関節が固まり、
頸椎1番と蝶形骨の柔軟性が
ロックされた状態でした。

ここには、捻れと
緊張によって関節に圧縮するような力が
加わっていたようです。

これらの力が、蝶形骨に対して
どう作用していたのかを考えてみましょう。

環椎後頭関節に働いていた圧縮の力は、
上下から抑える力。
すなわち蝶形骨にとっては、
下に引っ張られる力が働いていたことになります。

また、関節に生じていた捻れによって、
蝶形骨にもまた、
捻れがあったと考えられます。

捻れ、下へと位置がずれている蝶形骨。
(実勢には、検査をしても
確認できないほどのわずかなズレだと思いますが、
それが身体の機能にとっては大きな影響を持ちます。)
その蝶形骨の一番下からは、アゴの内側に向かって
筋肉が張っています。

骨の位置が変わると、
付着する筋肉の長さに変化が生じます。
この症例の場合では、
筋肉の付着している両端が近づくので、
筋肉は短くなります。

短くなった内側翼状筋は、
日常的に噛む運動に使われる内に、
強く緊張して行ったことが考えられます。
口を開く時に痛みが出ていたという、
現実の現象とも合致します。

短い状態で緊張が強くなることで、更に
筋肉の中には高い圧力が生じたことも考えられます。
顎関節を外に押すほどの力の正体は、
この圧力だったと思われます。
圧力がす~っと抜けていくような
変化の仕方だったこととも一致します。

環椎後頭関節の圧縮が改善して、
蝶形骨の位置が戻った際に、
筋肉はいったん引き延ばされ、
ゆるんだのでしょう。
その際に圧力が抜けたので、
顎関節のずれも戻った、というわけです。

どうでしょうか、
細かい説明でしたが
何となくイメージが出来たでしょうか?

一つ一つの現象、
~症状、変化の仕方、
患部の周辺の状態など~
それらの全てが、大切な情報です。
これらを丁寧に把握して行くと、
身体に何が起きていたのかを
読み解くことを可能にしてくれます。